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NYMの贅沢なブリッジイヤー

 21年オフにシャーザーを3年110M、22年オフにバーランダーを2年86.7Mを獲得するなどして史上最高ペイロール330Mのチームを作り上げたNYMですが、今季は不調で今夏のデッドラインでは売り手に回ることが濃厚です。

 しかし、ヘッジファンドの世界で成功を収めたスティーブ・コーエン氏がオーナーになって以降のNYMのトランザクション全体を通してみると、今季のような状況もメインシナリオではないにしてもリスクシナリオとして想定内だったように見えます。

 シャーザーやバーランダーの獲得が結果的に大金を掛けたブリッジイヤーとなってしまいそうですが、NYMのロスター・ペイロールの現状を考察したいと思います。

〇契約の期間差を活かしたリスクヘッジ

 まず、NYMのロスターを見ると、大物選手が揃っていますが、数年単位で見ると意外に財政余力があることが分かります。23年のペイロールが330Mに上り、24年にはまだ約240Mがロックされますが、25年には約120M、26年以降は100Mを割り込みます。シャーザーを獲得した21年オフに多くの選手を獲得した印象ではありますが、内訳をみると、シャーザー3年110Mをはじめマーテ4年78M、カンハ2年26.5M、エスコバー2年20M(6月23日にLAAに放出)と非常に短い期間の契約に留めています。

 半面、近い時期にリンドーアと10年341M、ブランドン・ニモと8年162M、エドウィン・ディアスと5年102M、千賀と5年75Mと5年以上の長期契約も結んでおり、コアとなる選手もしっかり確保しています。また、アルバレス、ベイティという大型ルーキー2人も順調です。コアの選手で中長期的な戦力の下地を整えつつ、短期契約の選手のハネ具合でチームのパフォーマンスが決まるというのは、失敗したときに後者の選手をリバランスすることで比較的容易にチームを立て直せます。NYMの場合、330Mをペイロール余力と見れば、25年には200M超の余力が生じるのでそこを目指してロスターを再編成すればいいわけです。

〇資金力にモノを言わせた贅沢な賭け

 上記のような手法はコアとなるエクステンション選手+FAまで短いベテラン(当年オフか1年後オフにFA)を組み合わせて、上手くいけばワイルドカード、ダメなら後者の選手を転売というのが、いわゆるブリッジイヤーと呼ばれる球団の基本的な動きとなります。しかし、今年のNYMはベテラン選手の枠がシャーザー、バーランダー、カラスコに加え、生え抜きのアロンソといったブリッジイヤーであわよくばというには派手なメンバーを取り揃えました。

 メインシナリオはもちろんプレーオフに進出の上、経験と実績に優れるベテラン選手の力で短期決戦を優位に進めようというものだったと思いますが、現実には想定されていたであろう下ブレのシナリオの中でも最悪のパターンとなってしまったように見えます。ただ、大金を張ったことで売り手に回った際のトレードの弾が凄いことになっています。

 トレード拒否権の放棄を宣言したシャーザーや、怪我から復帰しリーグHR王を狙えるアロンソ、単年獲得で好調なファム、リリーバーとして実績のあるロバートソン、レイリーらが売り候補となりますが、MLBに近いプロスペクトやデビュー済みのかなり質の高い若手獲得が見込めます。長期契約組を残しつつ、アルバレス、ベイティのルーキー、それに続くことが期待されるビエントスやマウリシオらに若い質の高い選手を加えることでコストを掛けずにリバランスできます。さらに今夏プロスペクトを厚くしつつ、オフに大物を獲得するトレードを仕掛けることも可能でしょう。

〇武器は資金力ではなくリスクマネジメント

 コーエンがオーナーになったことでNYMの武器は資金力のように見えますが、上述の通りNYMの武器であり、他球団から見た怖さはリスクマネジメントではないでしょうか。最大330Mまでペイロールを拡大できることを示しつつ、柔軟性を失わないロスター管理は、隙の無い金満ぶりを見せつけられたという思いです。主力で100M程度ロックしていても(調停選手へのペイロールは別にあるものの)真水で200M以上の予算があるというのは他チームにはない強みと言えるでしょう。契約期間の長短差を活かしたロスターマネジメントは有能なファンドマネージャーのようでヘッジファンドで財を成したコーエン氏の意向が色濃く反映されているようにも見えます。

 もちろん、コーエン一人の力ではなく、エプラーGMをはじめとしたフロントの働きもあるでしょう。また、コーエン氏は今季の状況について、予想外の最悪の結果としつつ、監督やGMの解任を否定しています。金に飽かせて短期的に結果を求めるスタンスではないことはNYMファンには何よりの朗報でしょう。今夏の売りトレードから25年にかけてNYMがどのようなロスターを今から楽しみです。

※画像はThe Athleticsより


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