見出し画像

インド・カースト制度考(2022年第2回)

インドに出張中です。昨日に引き続き、カースト制度について考えていきます。

ひとつお断りですが、私は学者や専門家ではありません。ここに記述することはあくまでも私自身がこれまで見聞きし、調べた範疇の話になります。カーストについてはまだまだ研究中ですので、私自身、わからないことばかりです。

それを前提に、現時点での私の考察を記述します。

まずは下の写真から。デリー市内によくみられる、ヒンドゥー教の祠のひとつです。

通行人や、近所に住んでいるらしい人々が足を止めお祈りをしますが、実はここにも、ヒンドゥー教司祭(バラモン)がいます。人々がバラモンにお金を払うと、バラモンが正式な儀式に則り祈祷してくれます。

私たちは、神社仏閣を参拝した時には自分で祈りを捧げます。しかし中には、料金を支払って神官や僧侶に祈祷をお願いすることもあります。それと同じような感覚でしょう。

しかし、祠には注意も払わずに歩きすぎる人たちも多いので、祈祷料で十分な利益を得られるかというと…。大きな疑問です。それゆえ、時代に沿った、新たな活動も出てきます。

ある日のこと。私は事務所近くのカフェに入り、昼食を摂りました。そのお店には、ヒンドゥー教の神が祀られています。

と、そこへ自転車に乗ったバラモン司祭が入ってきて、カフェ内にある神棚(上の写真)前でご祈祷。祈祷中の写真撮影は禁じられてしまいましたが、数分の祈祷のあと、司祭は店長から謝礼を受けて、カフェから去っていきました。巡回祈祷。祠の前で祈祷を請う人を待つのではなく、こうした商店に設けられているヒンドゥー神棚で祈祷するようになれば、収入的には安定します。新たな信仰ビジネスです。

このように、バラモンといえども時代に応じて収入源を多様化しないと、生きていけないようです。

カースト制度では、司祭階級であるバラモンは最高位に置かれています。

しかし、「高位カースト=裕福」という単純図式は、もはや存在しません。もちろん、有力な信者を得て裕福な生活を送っているバラモンもいるのですが、それはあくまでも少数派。多くのバラモンが、巡回祈祷、あるいはテレビを通じての伝道といった新たな取り組みをすることで、生活を安定させようとしているようです。特にデリーなどの都市部では、そうした傾向がさらに顕著なのでしょう。

祠の前で待つバラモン。

祠の前を通り過ぎる際、私は習慣的に合掌するのですが(タイ在住なので、タイ人妻がお寺や祠の前で合掌するのを見ているうちに、自分も一緒に始めるようになりました)、そうするとバラモンが手を出して何か話しかけてきます。それはまるで、おカネを乞うているかのようです。

これでは、カースト第1位としてのバラモンの威厳が感じられません。日々の生活にゆとりのないバラモンの、悲しい現実です。

なぜ、バラモンが生活に困窮する時代になってしまったのか。いや困窮までいかなくても、少なくても昔のように尊敬されない時代になってしまったのは事実のようです。そしてヒンドゥー教に熱心な人たちは、その原因を西側世界の価値観がインドに入り込んできたからだ、と考えるに至ります。

このままでは、ヒンドゥー教が衰退してしまう。インドが欧米化してしまう。そうなってしまったら、これまでの秩序の源泉として存在してきたカースト制度はいったいどうなってしまうのか。民主主義自体には反対しない。だがインドの民主主義は、ヒンドゥー教と共存できるものでなければならない…。一部のヒンドゥー教至上主義者たちは、彼らなりに、インドの行く末を危惧しています。

日本人からは、「おいおい、カーストの価値観はもはや時代遅れだ。人間はみな平等、今はそういう時代なんだ」という声が聞こえてきそう。しかしそれは、あくまでもその人の価値観。そのような意見をヒンドゥー教至上主義者たちに言ってみようものなら、このような質問が返って来そうです。

「人間はみな平等だというのなら、なぜ日本には天皇制が残っているのか」。

不適切な比較でたいへん申し訳ないのですが、天皇制を大切にしている日本人の感覚と、ヒンドゥーの神々を大切にしているヒンドゥー教至上主義者の感覚には、なにか共通なものがあるように感じています。ただ非常に残念なのは、ヒンドゥー教を大切にすることが、カーストの存続にもつながっていることです。

天皇制を大切にすることと、排他的になることには、大きな差異があります。ヒンドゥー教至上主義者も、カーストとの関係を整理し、その思想を分離できればいいのですが…。ヒンドゥー至上主義者の意図を「バラモンの尊厳維持」に絞り込むことで、低位カーストについてはもっと寛容的になれないものか。おそらくこの考えはインド人にとってはかなり突飛なものであり、ガイコク人が簡単に口を挟んでは無礼千万でありましょう。でもそう願わずにはいられません。

明日は「カースト考」の3回目。政治との関係について考えます。これでカーストに関する記事は、今回はひとまず終わりといたします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?