風にのせて届けよう。大切なあの人への手紙 BTS『I'll Be Missing You』
ビッタビタにはめてきた。SUGAが韓国語でラップを始めた瞬間、そう感じました。BTSはぜーんぶ分かってるんですね。BTSを愛する人たちの気持ちを全部。
私は新参ファンなせいか「BTSにはこうあって欲しい!」というものが余りありません。もともと洋楽ばかり聴いているので全編英語詞も抵抗ないし、幸いにもButterもPTDも好みにハマって大好き。ラッパー勢の "歌" を聴いては「3人の新しい声ステキ~」とキャッキャと喜んでいました。
ところがですよ。
BBC Radio 1「Live Lounge」で『I'll Be Missing You』カバー。
ラップの曲だと分かっていたし、RMでスタートするのも想定内だったのに。
「あーーー、これだった」。RMのラップに呼び覚まされました。BTSのかっこいいラッパーたちを「どう、すごいでしょう?」と世界にひけらかしたくなる、誰目線か分からないドヤ感。同時に、楽しい旅から家に戻ってフッと息をついたときのような感覚も。カレーうどんや牛スジうどんを堪能した後にぶっかけうどん(温玉とろろ)に再会したときのような気持ちと申しましょうか。
RMの本質はこれなんだよねと。まごうことなき、言葉の人。言葉の持つ力を知っていて、そこに強度を与えられる人。BTSの音楽に背骨を通す、BTSの父なる大樹。オーバーオールを着ているせいか、さらに頼れるお父さんみが増しています。肩まわりの分厚さには、どでかい鍬や鋤をも軽々と扱いそうな頼もしさを感じます。文脈に合わせて歌詞の単語のチョイスも変えていて、もうほんと、そういうとこだよRMさん!て感じ。
そしてV&ジミン、JK&ジンの美しいコーラスから、リズムがスローダウンし、大胆な転調とギターの音色とともに聴こえてきたSUGAのラップ。
韓国語で歌ってる!かっこいい…!と、まるで生まれて初めてSUGAのラップを聴いた3歳児のような反応になりました。シンギングラップもシンギングも全部好きだけど、SUGAの韓国語ラップは最高だな!(全地球人が知っている事実を大きな声で)
以前の記事で「SUGAは韓国語・日本語・英語と言語が変わったときの振り幅が一番大きい気がする」って書いたんですが、SUGAは韓国語でラップするときの声の情報量がすごい。この曲でも力んだり大げさな表現はなくて、むしろ抑えているのに、孤独、怒り、焦燥感みたいなもの、それらが声にギュッとつまっていて、密度がものすごく高い。猫団子のようにみっちみちです。そして転調で場が展開するときの、空気を一瞬で塗り替える威力といったら。韓国語がまったく分からないのに、何かがビッタビタに伝わってきます。最もクールに見える人がもっとも熱いものを秘めているって、最高ですね。
ラップは予想通りRM→SUGA→J-HOPEの順序。
RMがゲートを開け、SUGAが道を切り拓き、J-HOPEが駆け抜ける。特にグループ初期に多く見られる、安心・信頼・堅牢な組み立てですね。J-HOPEはSUGAと対照的に、音の隙間や空間を跳ねるように軽やかに移動して聴かせるタイプ。誰とも違うJ-HOPEさんだけのラップは飛び道具的なパワーがあって、ラストにくると「あ、そうくるの?」とこちらの想像をいつも心地よく裏切ってくれます。この曲も、忍耐や苦悩の後に爽やかな風が吹き抜けて、不思議と足どりが軽くなるような、そんなストーリーの締めくくりのようでした。
韓国語で彼ら自身のメッセージが聴きたい、ラップが恋しいというファンの気持ち。常にARMYと共にあるBTSのメンバーが、それを知らないはずはないと思ってましたが、英語曲に韓国語の詞をつけてくるのは予想の斜め上でしたね。メンバーからサプライズギフトを手渡しされた気分です。
7人が立ち上がってこちらに歩み寄るところ、ぐっとくるものがありましたね~。「every step I take, every move I make, I'll be missing you」という歌詞を体現しているようで。
パフ・ダディ&フェイス・エヴァンスの『I'll Be Missing You』は重たいビハインドストーリーがある、非常にパーソナルな曲。ヒップホップファンには、心の特別なスポットにこの曲を置いている人も多いと思います。
原曲はノトーリアスB.I.G.と近しい人たちの大切な物語。根底にあるのは、愛する人を奪われた悲しみや怒り、彼/彼女を恋しく思う気持ちや会えない寂しさという、万人に共通する想い。そこをすくいあげ、誰もが心に抱ける「一人ひとりのストーリー」として、この曲を届けてくれました。BTSからARMYへ、また会えるよ、というメッセージを織り込みながら。
トリビュート曲に手を入れるのは、RMが「have some burdens in our mind」と話していたように、なかなかのプレッシャーがあったと思います。でも「we miss all of you」と伝えたいと。私はBTSのハート、姿勢、そして何より曲とパフォーマンスの素晴らしさに心をグラグラに揺さぶられました。
歌詞だけではなく、構成、アレンジ、コード進行にも手を入れて、カバーというよりはオマージュに近い位置づけですね。ギターリフが淡々と続く原曲は鎮魂歌の色が強いけれど、BTSバージョンは80年代ロックっぽい懐かしめのアレンジ。原曲の原曲、The Policeへのリスペクトもあるのでしょうか。ストラトキャスターの泣きの旋律に全私が泣きました。転調やリズムチェンジを入れてはっきりと起承転結を演出し、現在進行形の苦しみや悲しみがあるけれど、私たちには信じて待つ力があるんだと、そう感じさせてくれました。
原曲はラップパートがかなり長めですが、BTSバージョンはコーラスを早めに配置して数も増やし、しっかりと7人の歌に。V&ジミン、JK&ジンのペアで交互につむがれるメロディは、決して途切れることのない希望の光のようです。そこに虹がかかるように、上から下から、右から左から差し込むファルセットのコーラス。美しすぎて言葉にならない。これボーカル4名全員やってるんですよね、すごすぎません?ていうか、BTSの制作陣、フットワーク軽くそこかしこにオクターブハモリやらなんやら入れてくるけど、大変なことですからね??
そらVさんもこういう表情になりますわ。できる子だからって無理させて…!Vさんは、聴き手にそっと寄り添うような、どこまでも柔らかく優しい低音が素晴らしかった。子守歌アルバムだしてほしい。不眠症や赤ちゃんの夜泣きが撲滅できそう。
このパフォーマンスはイギリスのラジオ番組用ということで、当日リアルタイムで音だけで聴いたんですが、震えるほど感動しました。なぜって、めちゃくちゃ歌がうまいんですよ!(銀河系が知っている事実を大きな声で)
まず『Dynamite』、いつも以上に練れている歌声。ここにきて最高点を更新してくるってどういうことでしょうか。バンドサウンドも最っ高です。今までのアレンジの中で一番好きかも。一生Dynamite大好き芸人します、と天に誓いました。続く『Permision To Dance』も、なにこの歌の充実ぶり。音楽指数の高さが半端ない。各人の声の出も素晴らしく、コーラスや合いの手がバンバン入ったザ・ライブバージョン。ますますPTDが大好きになりました。
あと、ラジオで音だけで聴くという体験が予想以上によかったです。映像がないと、かえって彼らが目の前で歌ってくれてるような近さを感じました(妄想で白飯おかわり行けるタイプ)。映像があるとどうしても視覚に意識を持ってかれて、目も耳も全然足りん!ってなっちゃうけど、音だけだったら音楽と歌に全集中し聴力を増幅させるので、逃がしてしまいがちな声や、息づかいや、体温や波動をつかめるのかもしれません。
ジミンもひときわ調子がよさそうで、歌がすごくよかったですね~。特にPTD。何度も同じこと言ってスミマセンなんですが、ジミンは高音がフォーカスされがちですが、私はハイトーンじゃないときのジミンの声が大好き。輪郭が煙ったような、ミルクティーみたいな声。この世でジミンにしか与えられていない特殊ボイス(褒めてます)。クリアに聴こえる系のイヤホンをつっこんで、目をつぶって音だけでぜひこの2曲を聴いてみていただきたい。ジミンとともに夢の国へ旅立てます。
『Dynamite』から『I'll Be Missing You』まで、本当に耳が幸せで、気づいたら頬がゆるゆるになってました。彼らの歌のうまさ、音楽への愛、仲間への愛、ファンへの愛を全世界の人に知ってほしい。
もちろん、「俺らのライブはいつでも満席ゴメンナサイネ~」みたいな曲も、いつでも大歓迎ですけどね!