見出し画像

登り窯をたくということ


こんにちは。鳥雲窯の納冨尚子です。

今日はよく晴れ、作品を乾かすには絶好の1日となりました。梅雨時期は、特に父のつくる大きな作品を乾かすのには、思いの外時間がかかります。

先日、なかなかしない失敗がありました。素焼き割れです。素焼き前の乾燥がしっかりできてなかったために大きくヒビが入るこの現象、父も何年かに一回しかないと言います。湿度が高い中で、何日も置いていても中まで乾いてなかったわけですね。

画像1                    素焼き前の乾燥過程

萩焼造りにおいて、早い段階での失敗から最後の段階での失敗まで、失敗の種類も数も、無数にあるというところです。

登り窯を炊く

生造り(いわゆる成形)、削り、素焼き、薬かけ、本焼きと、大きく分けて、これらの作業をしていくわけですが、中でも一番緊張感が高いのは、この登り窯を炊く(本焼き)です。

今でこそガス窯も多用していますが、以前は二ヶ月に一度、夜通しで登り窯を炊いていました。登り窯には、登り窯でしか出せない色があり、灰被りの作品も薪をくべる登り窯でしかできないのですが、登り窯には、長い間重ねた経験、データ、そしてなにより経験から得た肌で感じる''勘''が必要不可欠です。その勘については一つエピソードがあります。

ある日の窯炊きで

その日の窯炊きは朝からいつもとあまりかわりなく、順調に進んでいました。

早朝に火入れをしてからおよそ20時間、バーナーから薪に移行し、絶え間なく薪をくべていく中で疲れがピークに達する時間帯。

予め前後に三つずつ配置しておいた見込み(テストピース)をひとつ、ひとつ、時間差で取り出していくことで、窯の温度を知るのです。ガス窯には設置されている温度計が、登り窯にはないからです。そしてまさにこれこそが、焼き物を作る中で、最後の過程での''成功と失敗''の大きな分かれ道になると言っても過言ではありません。

その日も、三つ目の見込みを取り出すタイミングを、穴から見える見込みの釉薬の溶け具合から判断し、取り出しました。これを出すと、もう見込みは窯には残っていないので、あと何分で火をとめるかは、この見込みを 見ることで最終判断します。

この最後の見込みから、

「あと20分」と父が判断。これで、窯を炊き終わると思うと、疲れを忘れて安堵の気持ちに包まれました。

しかし、10分たったかたたないかで、

「ちがう、次の1くべで止める!」と、父が早くやめる判断に急遽変更したのです。私が一緒に窯を炊いてきた中で、こんなことは初めてでした。最後の見込みの溶けかたよりも、これまでのデータよりも、さらに大切な勘がそこにありました。

あの時私は時計を見ていました。正確に20分後に止めるために。父が見ていたのは、聞いていたのは、感じていたのは、なんだったのかは、後で聞かせてもらいました。

窯を開けときに、その10分が、いかに大事な10分だったかは私にも分かりました。

釉薬の流れの止まった位置が、それを物語っていました。

そんな奇跡のような成功がある一方で、ふとした油断で先日の素焼き割れ。。本日はしっかり乾かすことができてよかったです。

これからも、作品へのご感想、ご指導どうぞ宜しくお願い致します☘️

画像1

/https://susumu048.stores