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会計基準の話 第2回 【新収益認識基準】

こんにちは。SSKC会計グループの吉田です。

前回を踏まえ、タイトルにある通り収益認識基準について考えていきましょう。

①収益認識基準とは

新収益認識基準の強制適用は2021年4月からですので、記憶に新しい方も多いのではないでしょうか。

収益認識基準とは、”何を”、”いつ”、”いくら”で収益として認識するのかを定めた基準です。

基準では売上を計上するまでのステップを5つに区分しています。

1 顧客との契約の識別

書面や口頭により当事者間で契約が成立した場合、収益認識基準が適用されます。

契約により、対価を受け取る『権利』と商品を引き渡したり、サービスを提供する『義務』が生じることになります。この契約に基づく『権利』と『義務』という考え方はとても重要になりますので、念頭に置いておきましょう。

2 履行義務の識別

次に、契約内容を確認します。
顧客に引き渡す商品や、提供するサービスなど、つまり『義務』がいくつあるのかを識別するということです。

たとえば機械装置を販売し、2年間の保守サービスを提供する契約を締結したとします。この場合、機械装置の引き渡しと保守サービスの提供はそれぞれ別個に提供可能な『義務』と考えられるため、別個の履行義務として識別します。
 
3 取引価格の算定

『義務』を識別したら、今度は『権利』を考えます。
ずばり、この契約によりいくらもらえるのか?です。

収益認識基準では、収益を取引価格をもとに測定します。800円で仕入れたものを1000円で売る契約であれば、取引価格は1000円です。

ここで、200円の利益が得られる契約である、と捉えることもできますが、収益認識基準では取引価格をもとに配分していく考え方をとっています。


4 履行義務への取引価格への配分

『義務』と『権利』の金額が確定したので、次は金額の配分を行います。で識別した履行義務それぞれに3の金額を割り当てていきます。

割り当て基準は主に独立販売価格、つまりそれ単体で販売した場合いくらになるのか、という金額によります。

例えば独立して販売した場合それぞれ500円と1000円のものをまとめて1200円で販売した場合、割り当てられる取引価格はそれぞれ400円と800円です。この金額が、収益の金額になります。

5 履行義務の充足による収益の認識

収益として計上する金額は確定しましたね。最後に、それを”いつ”認識するかのお話です。

収益認識基準では「義務」を履行した段階で収益を認識するとしています。商品販売契約であれば商品を引き渡したとき、一定期間にわたるサービス提供であればそのサービスが提供される一定期間で認識します。
  
細かく見ていけば条件などいろいろとありますが、この5つのステップに従って収益を認識するのが収益認識基準です。

②収益認識基準と会計観

さて、この収益認識基準、いままでと何が変わったのでしょうか。

従来、日本の会計基準に収益の認識に対する包括的な基準はありませんでした。企業会計原則で原則が示されているほか、特殊な取引については個別の会計基準が示されている、といった具合です。

そこで収益認識全体に関わる考え方を明示したのが今回の収益認識基準になります。よって、今までの考え方から大きく転換した、というわけではありません。

もともと企業会計原則で示されていたのは『実現主義の原則』といい、収益は実現した時点で認識しましょう、というルールでした。
実現とは『財貨または用役の移転』、『現金または現金同等物の取得』という二つの要件を満たした状態をいいます。
要するにモノやサービスを提供して、その対価を得たタイミングで収益を認識しよう、と言っているのです。

収益認識基準のはじめ、契約の識別から始まりましたよね。
売買契約を結んだ段階ではまだ商品を引き渡していませんし、もちろん対価も受け取っていません。
なのでこの段階で実現主義では収益を認識しません。

これは今回の収益認識基準でも同様ですよね。
履行義務の充足時点で収益を認識するというのは、実現主義と似通っています。

ところが、収益認識基準で示されている「権利」や「義務」といった考え方は資産負債アプローチ的な考え方です。
資産負債アプローチでは資産を権利、負債を義務と考えるので、売上取引を貸借対照表から読み解こうとしているように見えますよね。

今度は資産負債アプローチの視点から収益認識を考えていきましょう。
前回、資産負債アプローチでは収益は資産の増加または負債の減少で認識するという話をしました。これは言い換えると権利を獲得、または義務を履行した段階で収益を認識するということです。

おや?と思いましたかね。
そう、資産負債アプローチでは契約を締結した時点で対価を受け取る権利が発生していますので、この段階で収益が認識されます。
認識する金額は契約による権利の金額が義務の金額を上回る部分となります。この金額が、契約により増加する正味の資産であると考えられるからです。

これは今回の収益認識基準とは明確に異なる部分です。

ということは、収益認識基準は資産負債アプローチよりむしろ収益負債アプローチと整合しているということですね。

③おわりに

結論から言うと、収益認識基準は日本の会計基準が従来採用していた収益費用アプローチの立場から大きく離れることはなく、従来の考え方を発展させ権利と義務の観点を加えたものとなっています。
そのため、売上処理自体はさほど従来の手法から変更はされていないんですね。

ということで、収益認識基準を会計観から考えてみましたが、いかがだったでしょうか。

その他の会計基準にももちろん理論的な根拠がありますので、これを機に考えてみるのもいいかもしれません。

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