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453フリン効果

題名のフリン効果。「不倫」がまずいからカタカナ表記にしたのではない。フリンという名の科学者の主張である。そして大方受入れられているという。フリン効果とは、「人間の知能レベルが一貫して著しい改善を続けている」現象のことである。

人間の知能を測るために知能検査というテストが用いられており、その検査結果を数値で表したのが知能指数、いわゆるIQである。知能が測定可能であることや知能は生涯を通じてほとんど一定であり、学問的、専門的な成功度を予測する指標となることについては、共通理解がある。
そのIQのスコアが時代とともにどんどん改善上昇している。イギリスのキングス・カレッジ・ロンドンの研究チームは、過去64年間に48カ国で実施された知能検査のデータを集めて分析したところ、1950年からIQの平均値が20ポイントほど上昇していることが判明した。同様の調査結果が各地で報告されている。
IQは平均が100になるように問題が作られる。これが20ポイント上昇するということは、1950年の試験問題を現代人が解いたら、平均が120になっているということだ。現代人がタイムマシンで1950年に行ったら、平均的な者すべてが秀才や天才の扱いを受けることになる。逆に言えば1950年当時の人の多くが、現代評価では精神遅滞の範疇に含まれる。そんなことがにわかに信じられるだろうか。

当のフリン教授自身は、IQスコアの上昇は事実としながら、人間の能力がそう簡単に変わるものではないとの立場だそうだ。そのほうが安心できる。人間の知能が右肩上がりで進化し続けているとしたら、われわれは先祖の活躍をどう考えればよいのか考え込んでしまう。
ではなぜ知能テストの成績が上昇しているのか。試験慣れしてきたからという説、都市化やインターネットの普及のように生活様式が変わり、脳の使用部分に変化が起きているからという説などがある。しかし試験を実施する方でも、問題を修正しているはずだ。にもかかわらず20ポイントもの上昇は大きすぎるだろう。

そうした中、知能指数は低下傾向にあるとの研究結果が、米国科学アカデミーの機関誌「PANS」発表された。
人類のIQは1975年以降、低下しつつある!?その原因は… | 健康 | ダイヤモンド・オンライン (diamond.jp)

それによると20世紀後半からノルウェー人男性のIQが徐々に低下しているという。1962~75年生まれの徴兵検査時の知能テスト(1970~2009年に実施)を集計したところ、最初のうちはフリン効果(成績上昇)が見られたが、1975年を境に低下に転じ、1世代あたり平均7ポイント、IQスコアが低下していたという。逆フリン効果である。
その研究では同一家族、血縁内のIQ比較も行っていて、父より息子、兄より弟のIQスコアが低下していた。逆フリン効果を報告する研究も、フリン効果同様、他にもたくさんある。そしてその理由としては、教育制度の変化や読書量の減少に加え、インターネット三昧の生活が考えられるとする。便利が高じて情報処理や判断の必要が減り「自ら考えること」を放棄した結果ではないかというわけだ。

われわれ人間は賢くなっているのか、あるいは次第に馬鹿になっているのか。超長期的、つまり人類生誕以来というスパンでは、少しは賢くなっているのだろうが、数世代で測定できる速度での上昇はあり得ないはずだ。
どのように進化論を振り回しても、数世代(数十年から百年程度)の短期で目に見える成長が出るはずがない(百年は百万年の1万分の1)。そうするとフリン効果や逆フリン効果の測定値はどういうことになるのかとなろう。
科学者の測定だから、どちらも正しいのだろう。どういうことか。短期的には知能指数の上下動は起きている。重要なのは、上がったり、下がったりを繰り返していて、決して一方向のみではないということだ。
そしてこれは他の事象にも共通するのではないか。例えば気候変動。たしかにここ数百年、地球温度は上昇しているが、必ず逆の動きがある。今の上昇基調の直前は冷却化が進んでいた。そうした上下動の繰りかえしなのだ。化石燃料消費が今の上昇局面の果たしてどの程度の要因になっているのか。
社会現象も同様だ。ポリティカル・コレクトネスとしてさまざまなタブーが作られつつある。それも一直線方向ではないはずで、紆余曲折を繰り返すはずだ。マルクス流の歴史の進行方向は決まっていて、最後は共産主義社会という主張に至っては、科学の振りをした妄想というほかない。

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