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789 年金が物価高に追いつかない 何を今さら

「生活必需品の値上げが続き年金受給者の生活が困難になっている。令和5年度の年金改定においては物価の高騰に見合った年金額の引き上げを強く求める」との意見書をある市議会が採択して、首相と厚労省に提出したと社会保障の専門誌家が紹介していた。
 
言っていることはごもっとも。「公的年金は国民全員で世代間の扶養をするものなので、給付の購買力維持は必須事項」。昭和48年に物価スライドという仕組みを導入したとき以来の国と国民との約束事項なのだから。
それより前はこうした仕組みはなかったから、物価が上がれば年金は目減りしていた。よってインフレ下で長生きすると暮らしはどんどんきつくなっていた。
 
これは年金史の基礎事実だから頭に置いて議論する必要がある。
 
その次の歴史的事実は平成4年のマクロ経済スライド導入。政府説明は複雑だが要点は簡単。少子高齢化の進展分だけ、物価スライドをケチる。それだけのこと。つまりマクロ経済スライドとはこれによって物価が上がれば年金の購買力は徐々に減るよということ。寿命が縮み、出産数が反転増加すれば、本来の物価スライドは維持される。けれどだれもが寿命はさらに延び、少子化はさらに深刻化すると知っての仕組み導入だから、「年金実質目減り制度」と名付けるべきなのだ。
物価スライドに「社会の高齢化が進まない限りにおいて」という条件をつけたのだ。
 
そこで冒頭の意見書を吟味しよう。
その主張である年金の購買力を守る方法は限定される。ボクが見るところ三つしかない。
一つ目はマクロ経済スライドが発動されないようにすること。例えば出生数が想定を超えて増加すること。岸田総理の異次元少子化対策にかかるわけだが、出生数が反転倍増するとの楽観予測を語る者はいない。
 
二つ目はマクロ経済スライドを廃止すること。だがそれをすれば年金の保険料を引き上げざるを得ないことになり、「保険料率を固定する」との前提が崩れる。若い世代の過半が「保険料が高すぎて払うのは嫌だ」と言い出した途端に年金制度は崩壊する。そうなれば年金支給そのものがなくなる。
 
そこで三つ目だ。年金受給者を減らす。
そのプランAは文字通りに受給者を減らす。具体的には医師が治療効果なしと判断する患者への終末医療への健康保険給付をやめて尊厳死希望者を増やすなどだ。日本では議論をさせない独特の社会風潮があるが、健全な社会運営の方が本来優先されるべきだろう。
プランBは制度上の高齢者を減らす。65歳以上を高齢者と定義し、これを老齢年金支給開始年暦としている。でも年配者は総じて年々元気になっている。そこで高齢者=年金受給者の定義を75歳以上に引き上げる。
「そんな殺生なことはあきまへん」。現世の国民の過半は反対するだろう。だがこれをしなければ次世代に年金はない。それを丁寧に説明することでこれから子どもを産もうとする人の合意を得る。これしかない。
 
これ以外の提案すべてごまかしであると断言して良い。よくて問題を先送りするものである。平凡だけど「良薬は口に苦し」。「巧言令色少なし仁」。

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