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540大学はいかにあるべきか ミネルバ大学の成功例

教育は社会発展の基本。幼児教育、初等教育、中等教育ときて、その成果の上に高等教育、すなわち大学が位置付けられる。そのわが国の大学のレベルがどうかとなると、お寒い状態がますますひどくなっている。世界のトップテン大学番付に縁がなくなって久しい。100位ランク表でもせいぜい一つか二つ。全国に大学と名がつくものが800以上もあるそうだが、教育の質の面で投下費用以上の成果を挙げていると自負できるところがいかほどあるか。
岸田総理は所信表明演説(令和3年12月6日)で10兆円の大学ファンドを作ると打ち上げている。それによって日本の大学が世界ランキングで上位を占めるようになると信じる声は聞こえてこない。ムダ金に終わる公算が高い。理由は簡単、日本の大学がおんぶに抱っこの国庫補助にどっぷり漬かっているからだ。日本大学の運営の出鱈目さはその氷山の一角。大学の教育内容が、世界水準に達しているか。しっかり目を光らせ、飴(国庫助成)ではなく、適正化への監督強化をする必要がある。
優秀な高校生がアメリカのハーバード大学などに進学する傾向が強まっているが、そうした外国のトップ大学の教育をも時代遅れとする大学が現われている。その一つが2014年に開学したミネルバ大学。開設者のベン・ネルソン氏の話を聞いた。ミネルバ大学では実社会で必要とされる実践的な知識を徹底的に身につけさせる。例えば専攻が歴史であってもそこで得た知識を、他分野にも応用できるようになることが学生の到達目標。Transferable skill、転用可能なスキルと名付けている。
運営面ではキャンパスという無駄な施設を持たない。世界7都市をクラスメイトと移り住みながら、社会に溶け込んでアクティブラーニングを続ける。学生評価も記憶力を確認する定期試験ではなく、日々の教授との応答や課題学習成果の完成度で行う。それを可能にするためにITを活用するし、授業は面談ではなく、すべてオンラインで行う。わが国ではコロナ対応でしかたなくネット授業と言っているが、ネルソンさんによればネット授業の方がよりよい授業ができるのであり、開学以来、つまりコロナ前から教室に集合しての体面授業は行っていない。
世界中から高校で成績トップだった受験生が集まり、合格率は1%。競争率が100倍とのことだ。採用基準には学力のほかに、勉強以外にどのような社会体験をしたかが重視される。学校と塾の往復ばかりという者にはいっそう狭い門である。

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大学教育に必要なのは、社会に役立つ人を育てることだ。豪華なキャンパスを整備し、理事長の権力を振りかざすためではない。ミネルバ大学が突き付けた視点で再点検すれば、全国の大学の8割、9割は認証評価のやり直しになるだろう。そしてそれが世界からも取り残されているこの国の大学再生の糸口になるはずだ。
岸田政権が準備するという10兆円の大学ファンドは、とりあえず凍結したほうがよい。そして大学ではなく、個々の学生に対する奨学金に切り替えるほうが、ムダ金にならない。奨学生に到達目法を申告させ、達成度の審査結果に応じて返済免除率を調整するのだ。進学先はミネルバのような外国大学であってもかまわない。日本人学生が懸命に勉強して成果を出せば、奨学金の回収額は少なくなるが、卒業生の活躍で日本の社会経済の発展につながり、税収増が見込める。努力が足りなければ、奨学金回収の過半が回収され、財政負担は小さいが、社会経済の発展つながらず税収増を望めない。財政的には中立だが、前者を目指すべきことは言うまでもない。
なおミネルバ大学の7都市にはアジアも入っているが、なぜか台北とソウル。日本の都市は選ばれていない。これは寂しいことだ。ならば日本を拠点に世界中から学生を集め、外国都市もアクティブラーニングの場所として組み込む新大学を作る機運が盛り上がることを期待しよう。
既存の大学に漫然とカネを配ることで現在の大学業界秩序を守り、改革の目を摘んでいるのが大学助成金。成果が不明で、国家財政の負担になっている。改革には既得権益の見直しが避けられないことに気づくことが出発点である。

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