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放射能の恐怖には科学的論説が必要だ

 第五福竜丸事件とからめて核問題を扱った社説である。
 第五福竜丸は今、どこにあるか。実は江東区の夢の島に保存されている。周囲を覆う大きなドームが、ヨットハーバーからもよく見える。入館料無料だから一見の価値あり。隣の熱帯植物園見学のついでにどうぞ。
 この船は廃船になり、夢の島に超粗大ごみとして捨てられていた。証拠隠滅のようでおかしいと保存を働きかけた人がいたから、今に残っている。感謝しなければ。
 社説の執筆者はどのくらい事件を研究したのだろうか。当時、この海域に出漁していたマグロ船は千の単位になる。そのほとんどがいわゆる”死の灰”を浴びた。核実験の放射能は広島の5千倍とかで、その汚染降下物を浴びた船員は、ただちに重篤な症状を呈した。その後遺症の関連で早死にした人もいるかもしれないし、後遺症状で今も苦しむ人がいるかもしれない。社説ではそうした人が船員保険の労災認定を求めているという。現在の固定症状との間で因果関係があるならモタモタせずに認定すべきだろう。
 問題はその科学的認定だ。世間的には漁船団の船員がバタバタ死んだような印象を持っていたが(ボクも第5福竜丸展示館を見るまではそうだった)、実際の死亡者は久保山愛吉さん一人のようだ。そして久保山さんの死因である肝炎は、治療で受けた輸血による感染というのが定説だ。つまり急性症状を呈した人は多数いたが、ほどなく回復したということになる。

 ここからが社説の問題点。福島原発処理水水放流が太平洋島国を恐怖に陥れているかの印象付けをしている。しかしビキニ環礁で行われたのは、殺傷を目的とした核爆弾の実権であり、原子力発電とは次元が違う。問題にするのであれば、核爆弾を実戦で使うぞと脅しているロシアであり、新たに核武装国になろうとしている北朝鮮ではないのか。日本に向けて核暖冬の照準を合わせている習近平中国に何も警告しなくていいのか。核兵器は廃絶しなければならないが、原子力発電は地球環境に維持からは推奨するのが国際潮流だ。それに棹さすのであれば説得力ある根拠を示さなけれが笑われるだけだ。
 プーチンと親交があると豪語している某衆院議員のはプーチンを夢の島の第5福竜丸に招待してもらいたい。もちろんその後で、国際指名手配犯として逮捕して国際法廷に引き渡す段取りになるけれど。



ビキニ被災70年 深刻な核被害、伝え続けねば

中国新聞社説 2024年3月2日

静岡県焼津市のマグロ漁船第五福竜丸が中部太平洋マーシャル諸島のビキニ環礁周辺で操業中、米国の水爆実験で被曝(ひばく)して70年が過ぎた。乗組員23人全員が「死の灰」を浴び、無線長の久保山愛吉さんが半年後に亡くなった。
 その衝撃に加え、国民に身近だった魚の放射能汚染も相まって、原水爆禁止運動が東京から湧き起こり、瞬く間に列島を席巻した。占領軍によって長く封印されていた広島、長崎の原爆被害が注目されるきっかけにもなり、被爆者の全国組織が誕生した。
 広島や長崎の被爆地は、放射線による被害者、「ヒバクシャ」が自分たち以外にも存在することを知った。

  今なお深い傷痕

 核実験は米国以外の国でも多くのヒバクシャを生んだ。傷痕は今も深い。被害を繰り返さないため、広島、長崎は他の核被災地と共に、核被害の深刻な実態を国際社会に訴え続けなければならない。
 マーシャル諸島での核実験は第2次世界大戦終戦の翌年の1946年から58年までに67回、米国が実施した。中でも第五福竜丸が被曝した水爆の破壊力は強く、広島原爆の千倍ほどだった。
 甲状腺障害や流産、死産が住民に相次いだ。島や海も放射能でひどく汚染された。故郷の島から離れざるを得なくなった人も少なくない。
 放射能汚染土やがれきはドーム型の巨大な建造物を設けて封じ込めたものの、完成から40年以上たち、劣化が進んでいる。プルトニウムなどの放射性物質も含まれており、海に漏れる恐れがある。
 放射性物質による環境汚染は避けなければならない。ところが、それを軽んじるような日本の振る舞いに太平洋の国々から懸念の声が上がっている。事故を起こした東京電力福島第1原発から出る汚染水を多核種除去設備(ALPS)で浄化した処理水の海洋放出で、昨年始まった。微量とはいえ、通常の原発排出水には含まれないセシウムやストロンチウムなどの放射性物質も海に流す。太平洋の国々の不安を高めてはならない。

 救済の課題残る

 被災者救済という課題も、日本には残されている。核実験の周辺海域では、第五福竜丸の他にも、約千隻の漁船が被曝した。被災者は延べ1万人以上との見方もある。
 当時の日米両政府による「政治決着」で、米国が日本に200万ドル(当時で7億2千万円)の「見舞金」を支払うことになった。福竜丸以外の船の被災は切り捨てられ、マグロの放射能汚染の検査も打ち切られた。問題が解決したわけではないのに、だ。
 福竜丸以外の船については後に調査が進み、近年になって、救済を求める声が上がり始めた。元漁船員らが船員保険の適用(労災認定)を求める訴訟などを起こしている。

  禁止条約生かせ

 現地や日本に残る核被害の傷痕を癒やすため、3年前に発効した核兵器禁止条約を生かしたい。特に第6条。ヒバクシャに医療ケアを提供し、放射能汚染された地域の環境を改善するよう定めている。核保有国や、日本をはじめその傘の下にある国々を巻き込むきっかけにもできよう。
 ビキニ被災70年の追悼式典がきのう、マーシャル諸島であった。広島市出身の大学生や広島市立大生を含め、若者たちが日本から駆け付けた。核被害の脅威を世界に伝えるため、若い世代の役割は重要だ。禁止条約も前文で、核軍縮への女性の積極参加や将来世代への期待を示している。
 折しも世界は核被害が再び起きかねない状況に陥っている。核超大国ロシアが核兵器をちらつかせた脅しを隣国に繰り返すなどし核兵器使用のリスクが冷戦終結後、最も高くなった。各地の若者とも手をつなぎ、核なき世界を訴え続ける。節目に改めて確かめたい被爆地の使命である。

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