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617フランス議会で地殻変動 決選投票の仕組み

プーチンの野望を食い止める中心はEU(ヨーロッパ連合)諸国の結束。その中心国であるフランスでは現職マクロン大統領が民族派ルペン候補に辛勝して2期目に入ったばかりです。アメリカなどと同様、大統領は国民の直接選挙で選ばれますが、法律を制定し、予算を承認するのは議会ですから、大統領支持者が国会議員の過半数を占めていないと、政権運営がうまく行きません。国会議員の中から内閣総理医大臣を互選する日本やイギリスのような議院内閣制との違いです。
さてそのフランスで国会議員の総選挙が行われました。その結果をマスメディアは「マクロン大統領に厳しい結果」と報じています。フランスの下院定数は577。マクロン大統領の右派連合「アンサンブル」は100も議席を減らして245議席。過半数の289を割り込んでしまいました。これに対しメランション氏が率いる左派連合は議席を増やして131議席で第2勢力。また大統領選挙でマクロン大統領と争ったルペン氏が率いる急進右派は前回の6から89議席へと10倍以上の大躍進です。左右両勢力が議席を増やしたため、大統領はどちらの勢力と協力関係を築くのか、ウクライナ支援の増強にも関わり目が離せません。

以上、マスメディア的評論はここまでにして、今回の本題は選挙制度。とりわけ低投票率で選ばれた者がほんとうに民主主義的代表と言えるのかについてです。
フランスの選挙システムとして知られているのは「2回選挙制」。先の大統領選挙でも実施されました。多数が立候補した場合、票が分散しますから一人が圧倒的多数票を得ることは難しい。そこで一定以上の支持を得た有力者のみによる決選投票をして決着をつけます。これが2回選挙。
この仕組み、なかなか合理的だと思えるのですが、わが国では採用されていません。でも導入を主張した国会議員がいました。実例を示します。
昭和56年4月の千葉県知事選挙で39万票を獲得した候補が当選者とされました。そのときに有権者数は323万人。しかし25%しか投票に行かず、投票数は約80万。80万票中39万票を得たのですから、選挙に行った者の中では半分近い支持を得たわけですが、有権者総数に占める比率ではわずか12.2%でした。これでは真に有権者の代表とは言えないのではないか。そう指摘し、フランスの選挙制度を参考に、有権者の真の代表とみなせる仕組みを導入すべきであると主張した国会議員が内閣に質しました。(第94回国会衆議院質問主意書昭和56年4月14日、提出者小沢貞孝)
提案は、①当選人になるには、有権者総数に対する得票率の最低を規定すべきである。②投票で上を満たす者がいないときは、上位得票者2名による決選投票をすべきである、というもので、まさにフランス方式です。

ところがこれに対する政府答弁(内閣衆質94第28号、内閣総理大臣鈴木善幸)はそっけないないものでした。その要旨は3点です。①投票は強制ではなく任意なのだから、投票した者だけの中で多数の支持がある者を民主的代表としてよい。②有権者総数に対する最低得票基準の定めることは立法政策として考えられるが、これを実施すと買収などの選挙違反を増やすだけだ。立候補者が一人しかないない場合の無投票当選が実施されており、実際の支持率を吟味する必要は薄い。③決選投票制は過去に地方選挙で行われたことがあるが、1回目と2回目で得票順位はおおむね変わらなかったことから、導入の実益がない。

そこでフランスに2回選挙制度がどういうものか。フランス大使館の文章から抜き書きしてみましょう。なお、フランスの下院選挙は選挙区で一人だけが選ばれる小選挙区制です。
2017年フランス国民議会選挙 - La France au Japon (ambafrance.org)

「国民議会議員は小選挙区単記2回投票制直接普通選挙で選出されます。1958年来、すべての選挙がこの投票方式で行われました。(例外は1986年の選挙で、比例代表1回投票制直接普通選挙方式で行われました)。
●第1回投票で選出されるには、有効票の絶対多数、有権者の4分の1以上の票数を獲得しなければなりません。決選投票では、相対多数を獲得すれば当選できます。
●決選投票に進むには、第1回投票で選挙区の有権者数の12.5%以上の票を獲得しなければなりません。」

こういうことです。最初の投票で有権者総数の4分の1(25%)以上を得た候補は文句なしに当選者とする。つまり有権者総数の過半酢支持を要求してはいません。過半の支持を得ていなくても、4人に一人が応援する者であれば、民主的代表者として認めよう。
でも候補者が多いとか、投票率が低ければ、これはきびしい要件です。そこで2回目の投票をする。これに進める候補者を選抜するので、決選投票といわれることになります。決選投票に参加できる要件は、1回目の投票で有権者総数の12.5%(8分の1)以上の票を得たこと。仮に投票率が半分であったとすると、投票数の25%(4分の1)以上の支持を得なければなりません。投票率がさらに低くて2割5分であれば、その半分を獲得しなければなりません。厳しいですね。
投票率の低下傾向はフランスでも同じ。今回の下院選挙での1回投票では47.51%でした。そして2回投票でも46.23%。そこで決選投票では、有権者総数に対する支持の最低基準を適用しません。単純に得票数が多い方が勝ち。極端に言えば、1回投票の後、舌禍事件などを起こして選挙民の熱意が低下して、投票率が極端に下がっても、最多得票者が当選します。1回目の投票で有権者総数に対する一定の支持(12.5%)を得ているからということでしょう。
ところで投票率の低下は日本では特に深刻。7月参院選の投票率はどうなることでしょう。そうしたことを考えるとフランス式2回投票制は、改めて参考になるのではないでしょうか。

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