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843 学校のプールがなくなる 校外活用の波

 都内の学校で水泳の授業の実施場所を地域の屋内施設に切り替える動きが広がっているという新聞記事(読売2023.6.21)。

 葛飾区では今後建て替える小学校には新たなプールを作らない方針だ。水資源の問題、学校経費の問題、教員の指導負担の問題。どこから見ても正当な姿勢だが、合理的なことには何でも反対する非生産的な声があるようだ。

 学校プール廃止で児童が困ることがあるのか。スポーツ施設を利用して水泳授業をしている学校の場合、「屋内プールなので寒くない」「習熟度に応じてプロコーチが指導してくれるので、上達が早い」「水泳が苦手な教員はプールサイドで監督に専念できて、子どもの安全は万全」など評価はは上々。裏を返せば、青天井むき出しの学校プールでは、「台風などによる順延」、「炎天下での熱中症」、「周囲のマンションからの視線」、「学年ごとにプールの深さ調整をする労力負担」など、課題ばかりがゾロゾロ上がる。

 葛飾区に限らず、すべての学校で学校プールを即時廃すればよさそうなものだが、強硬な反対意見があるのだ。その理由が笑える。

①「学校のプールは火災時の消火用に使われる。」今どき学校には消防ホースをつなぐ消火用給水栓(消火栓)が設置されているだろう。プールの水を利用することで火災鎮火に役立った事例があれば挙げて紹介してもらいたいものだ。

②「災害時のトイレ用水になる。」地震を言っているのであれば、水道管が壊れるほどなら下水管はとっくに切れていて、トイレに水を流せない。災害用には水を使わない簡易トイレの開発が進んでいる。

③「せっかくあるのだから水泳以外の活用法を考えていきたい。」都庁教育振興課長の言だそうだが、これが保全や新設の理由になると思っているのがおそろしい。経費感覚がまるでないのだ。公費を無駄遣いすることが役人業であるとの認識なのだ。

 文科省の教育指導要領では小中とも年間100コマ前後の水泳授業をすることになっている。これだけやればだれもがメドレー競技くらいできそうに思うが、それでも金づちがけっこうな数いるというのだから、学校プールはますます役立っていないことになる。

 子育て世代向け情報サイト「いこーよ」が実施した子どもの習い事に関するアンケート調査によれば、実に38%の子どもがスポーツ施設に水泳を習いに通っている。そうした子には学校の水泳授業自体が「かったるい」であろう。学校プールを全廃して修繕費や運営費をなくせば、残り6割の子どもを夏休みに民間スポーツ施設のプールに通わせる費用も捻出できそうだ。

 ボクの育った時代、学校プールなどどこにもなかった。民間スポーツ施設も当然なかった。それでも子どもたちは臨海教室で遠泳の技能を発揮した。それは農業用水用のため池で、夏休みの午後を水泳して過ごすのが学校課題になっていたからだ。水が汚いので眼病予防でクロールは抜き手スタイルになったけれど、常時顔を上げている背泳ぎや平泳ぎは皆得意だった。乗船が難破した際には、外洋の波では沈まないことが生き残るコツであリ、学校で水泳を習得させる目的も詰まるところ、水難対応能力の養成であろう。

「学校に独自プールがなければ水泳授業はできず、教育指導要領の水泳の項目は実施できない」。この種の目的と手段をはき違える者を教育現場に放置していてはいけないと思う。

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