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648ロシア極東で子どもに軍事教練

所長:NHKの『国際報道』(8月24日)でロシアが愛国強化の一環として、ウラジオストクで小中高校生への軍事教練キャンプなどを始めたと報じていた。日本では「子どもに銃の打つ方を教えるなんて」と親たちが柳眉を吊り上げそうだが、なぜロシア政府はこんなことをするのだろう。
輝明:子どもたちを2週間のキャンプに連れて行き、実物の銃を持たせて撃ち方の指導をしていましたね。「将来の兵士を要請し、戦争に備える」と強調していた。ウクライナ戦争をこの子たちが兵役該当年齢になるまで続ける気なのだろうか。
香澄:子どもたちから「ウクライナでの戦争がなぜ終結しないのか」と問われた教官が「ウクライナのナチスから解放するための戦争だから長引いているのだ」と答えていたけれど、どういう意味かしら。
輝明:ウクライナ政府はナチズムに支配されていて、自国民、とりわけロシア語を話す人々を殺戮しているから、正義のロシア軍が出張って開放するのだというのが、ロシア政府の公式な主張。しかし本家ナチスの発祥地ドイツでは、ヒトラーの自殺とともに人々はそのくびきから解き放たれ、ナチズムは雲散霧消した。その例に倣えば、ロシアが軍事的に優位にあれば、ウクライナの政権は国民から見放されて崩壊しなければならない。でも、ウクライナ人の政府支持は高まり、今では「対ロ平和」ではなく「対ロ勝利」を合言葉にしている。プーチンのプロパガンダに無理がある。
香澄:子どもたちの隊列行進にはナチス・ユーゲントの記録フィルムが重なる印象だった。 「ナチズムはウクライナではなく、ロシアの方ではないのですか。」ロシアの要人にインタビューするマスコミ人には、冒頭にそう聞いてもらいたい。  
輝明:ウラジオストクは日本海を隔てて、日本と向かい合っている。ここで子どもたちに軍事教練を施しているのには、ウクライナ情勢以外にも意図があるのだろうか。サハリン州(樺太)でも同じような状況であると報じていたが、先の戦争で奪われた領土を日本が取り戻す気にならないよう、予防線を張る意図もあるのだろうか。
香澄:それはロシア政府に聞いてみなければ分からない。もっとも専制国家のことだから、その親玉であるプーチンの本音は側近といえども正しく理解しているとは限らない。ただ人間は、相手も自分と同じような発想をすると考えるという。
  プーチンはウクライナに軍事侵攻する気はないよという振りをして敵も味方も欺いたうえで、サイバー攻撃でウクライナ政府や軍の情報システムを混乱させたうえで進軍させた。ウクライナ国境警備隊は発砲していいのかどうかの指示も仰げなかったのではないかと思う。騎士道や武士道とは正反対の人物だと思える。だとすれば相手も自分同様に汚い手を使うはずだと考えるはず。日本が戦争放棄を唱えれば、「日本はロシアの極東領域への侵攻準備を着々と進めていて、それを隠すために意図的に口先で平和主義を強調している」と疑う。
輝明:その猜疑心が「北海道に侵攻する準備がある」などと手下筋の連邦議員に発言させているのかもしれない。だとすると日本も負けずに「北方領土侵攻準備」と疑念を持たせる内容の演習をした方がよいのかも。その規模を分析して「この程度の攻撃準備であれば防御できる」とロシア軍は安心できる。
香澄:核兵器の議論と同じで、双方の攻撃力が匹敵していて、仕掛けても失敗する公算が高いと双方が判断するときが、実はもっとも平和が保たれるというのは軍事筋の常識のようね。
輝明:その点では極東ロシアで軍事アンバランスが懸念されるのは中国との関係ではないだろうか。ウラジオストクがある沿海州はもとをただせば、清帝国を作った満洲族の支配地だった。それをロシアが占領して今日に至る。清が譲渡した条約はあるけれど、力関係が変われば、紙くず扱いしてもよいというのが、共産党が支配する国に共通する思考法。
  中国大陸を支配していた民族の故地は中国のもの。そしてその異民族は漢族に含まれるという論法で押し通して恥じないのが中国共産党。沿海州は本来満州族に戻されるべきであり、それはすなわち中国領に加えることであると言い出すのは時間の問題。ウラジオストクとは「東方を征服せよ」を意味するロシア語。でも西方の中国からの攻撃への準備ができているのか、人ごとながら心配。
香澄:一度足を踏み入れた土地は譲らない点ではロシア人も後に引かない。ロシアは歴史的に、西(ヨーロッパ)か南(中央アジア)か東(極東)のどこかで征服戦争を仕掛けている。こうした専制国相手にわが国はどうすべきなのか。日本政府は安全保障についての政府の考えを国民に説明すべきだと思うわね。

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