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戸籍とDNAが合っていないときはどうする?

「自分の出自を知る権利がある」。その観点からの法律制定を目指す動きを紹介している。子の要求があれば「関係者の同意の有無にかかわらず」というのがポイントだ。
 不思議なのは、推進勢力が「生殖補助医療の在り方を考える超党派の議員連盟(会長:野田聖子衆院議員)であることだ。
 出自を知る権利が必要なのは人工授精で生まれた子どもだけなのか。ちょっと世界を見回しても、プーチンがウクライナから連れ去ったと言われる2万人の子どもには、DNAでつながるほんとうの親の情報は保証されているのか。
 国内の一議員連盟の行動は生殖医療への補助金獲得が裏の目的ではないのかと勘繰るのは邪道だろうか。
 知る権利を徹底したいという純粋な目的であるならば、すべての人にその機会を保証しなければおかしい。技術的には家畜やペットではすでに血統書として定着している。技術的には難しくなく、論点はすべての人の遺伝関係を把握することについて、反対の立場からの人権を主張する者が考えられることだ。社説ではそうした点への指摘はいっさいないようだ。生殖医療を進める観点方は朗報といった切り口では、提灯記事かいなと疑ってしまう。

 もう一つ関連するのが戸籍との関係をどうするか。法的には戸籍で出自が行為され、相続や相互扶養関係が規定されていく。戸籍登録の際に確認する出産証明書は、偽造ではなく、赤ん坊のすり替えはされていないことが前提になっている。いわば性善説であり、血液のDNA検査は実施されていない。
 出自を知る権利を主張する勢力が、戸籍登録の際にDNA検査証明書を提示すべきと主張するのであれば首尾一貫しているが、どうもそういう主張ではないようだ。現行の戸籍システムよりもFNAを優先することになれば、老親の世話をし、当然に遺産承継者と思っていた戸籍上の子が、葬儀の場に現れた見知る者がかざすDHA鑑定書にひれ伏さざるを得ないドラマのような光景があちこちで生じることになりそうだ。
 良識ある国会議員の先生方は、先刻そうしたことは承知の上で提案しているのだろうが。それにしても心配だ。
 
 

出自を知る権利 時代に合った法整備急げ

中国新聞社説 2024年2月28日

 生殖補助医療の在り方を考える超党派の議員連盟が、第三者の精子や卵子を使った不妊治療に関する新法のたたき台修正案をまとめた。各党の合意を得て、今国会に法案提出を目指す方針という。
 生まれた子どもが遺伝上の親を知る「出自を知る権利」を重視し、子の要望があれば提供者の同意の有無にかかわらず、身長や血液型など一部の情報を開示する。議連が2022年3月にまとめた、たたき台では、提供者の同意があった場合に限定していた。
 一部とはいえ開示情報の範囲を広げる修正は前進と言えよう。ただ、子どもが自らの出自を知るためには、まだまだ検討が不十分な点もある。

 夫以外の第三者の精子で妻が人工授精を行う非配偶者間人工授精(AID)は戦後すぐに始まった。これまで1万人ほどが誕生しているとされるが、第三者が関わる生殖医療は情報を告げないことがあくまで前提になっている。
 医療の進展は目覚ましく、さまざまな形で子どもを授かることが増えてきた。親子関係を確認するDNA型などの解析技術も進み、出自を知りたいという子どもの思いが高まるのもうなずける。
 「自分はどうやって生まれたのか」というルーツをたどりたい思いはあろう。見えない親から引き継いだ遺伝性の病気、さらには予期せぬ近親婚などへの不安もある。生殖補助医療で生まれた子どもに寄り添える対応が要る。

 修正案は、精子や卵子の提供者、提供を受けた夫婦、住所、マイナンバーなどの情報を独立した組織で100年間保管するとした。ただ、提供精子などによる人工授精や体外受精が受けられるのは、これまで通り、医学的に子ができない法律上の夫婦に限定した。同性婚や事実上のカップルまでは対象を広げず、代理出産も認めないとしたことには議論の余地も残る。
 子どもの出自を知る権利は1989年に国連で採択された「子どもの権利条約」にもうたわれる。「児童は可能な限りその父母を知り、その父母によって養育される権利を有する」のはもっともだ。

 海外では開示に踏み切る国が少なくない。体外受精を78年に世界で初めて成功した英国は徐々に拡大し、提供者の身元を特定する情報も開示するように。オーストラリアのビクトリア州では出生証明書に提供の事実を明記し、法施行前の提供者情報の開示にも踏み切っている徹底ぶりだ。
 匿名性をなくせば提供者がいなくなるのでは、という指摘もある。しかし、匿名でなくても協力を申し出てくれる提供者は実際には少なくないという。提供の在り方がどうあるべきか、少なくとも議論を重ねる時期に来ている。
 治療は認定された医療機関に限ることや、精子や卵子のあっせんは国の許可を要件とすることはうなずける。提供の対価の授受を禁止し、違反した場合の罰則規定も必要だろう。不妊治療の支援をする行政などの窓口強化も欠かせまい。子どもの知る権利を最優先に、時代に合った法整備を急いでもらいたい。 

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