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472在留緩和の将来像

― 政府は人出不足に対応するため、外国人労働者の在留資格を緩和する方向で検討に入った。事実上、在留期限がなく、家族帯同も認められる在留資格「特定技能2号」について、現在の建設と造船・舶用工業の2業種だけでなく、人材確保が困難な農業や宿泊業、外食業などにも拡大する考えだ。関係省庁と調整し、来春の正式決定を目指す。 ―

 新聞のトップ記事の書き出し部分である。今日は11月29日。エイプリルフールではない。
 介護や農業などで、人手不足が厳しいので猫の手でも欲しい。外国人でも構わないという声があるのはたしかだ。だが、その声が国民の総意であるわけがない。技能実習生とはその名が語るように、わが国に技能を学びに来る人であり、制度目的は、一人前の技能を習得したら母国に帰って、その業界のリーダー的役割を担うこと。言うならば、技能習得研修目的の客人というのが本来の姿である。
 留学生を低賃金の労働者として酷使したらどうなるか。
第一に、技能習得の目的が達成されず、当の実習生が「騙された」と帰国後に反日運動家になる。それではまずいから帰国させないよう無期限在留を認めるとするのがポイントのようだが、その者たちは低賃金のまま老後を迎え、膨大な社会福祉の受給層を作り出す。文化が違い、言葉の壁があれば、欧州諸国で苦しんでいる社会の分断をそのままわが国に持ち込むだけである。そうならないように「新自由主義の是正」を主張していたのではないか。
 第二に、わが国全体で考えれば人手不足ではない。賃金が上がらないのがその証拠だ。岸田さんは3%の賃金アップを訴えている。低賃金の外国人労働力導入は、平均賃金を上げることにはならない。賃金アップに必要なのは、求人数の増加と、国民の労働能力の改善だ。企業に求めるべきは、製造拠点の国内回帰。国民に求めるのはワークフェア意識と能力向上への自己努力。技能実習生制度を続けたければ、日本国民相手にすべきである。
 第三に、介護や農業に労働力が集まらないのは、その分野の構造問題なのだ。例えば介護では、保険給付の対象を絞り込むことで介護報酬単価を引き上げる。それで賃金は他業種並みに上がる。農業もそうだ。経営に持続性があり、参入障壁が解消されれば、この分野に生涯をかけたい国民はいくらでも手を挙げる。業界の構造改善を怠たり、労働条件を低レベルにとどめることで、社会全体をおかしくしている業界にはお灸をすえるべきなのだ。そもそも介護サービスの受け手の高齢者から、言葉が通じない外国人介護者の方を好むとの要望を岸田さんは聞いたとでも言うのだろうか。
 第四に、わが国は人権と国民主権が世界の規範であると主張する立場にある。「ウイグルでのジェノサイドと搾取的強制労働を許さない」と正論をかざさなければならないのだが、技能労働者は足を引っ張ることにならないか。「日本には“実習生”という他民族への搾取的労働があるではないか」、「長期滞在にも拘らず国籍を与えず、公民権もないではないか」との非難の世界的論陣を張るくらい、中国政府はお手の物である。
 第五に、わが国の外国人政策はつとに決まっている。日本国民が遺伝子的には多様である。すなわち古来より、この島国を単一の国家として維持継承し、有能な高度人材であれば帰化人、渡来人として積極的に受入れることで、国を栄えさせてきたのである。他方、四囲が海に囲まれている特徴を生かし、食い詰め流浪群衆の流入には厳しい制約を課してきた。その結果、民族移動の波に飲まれて居住者構成が一変するような災厄に逢わずに来たのだ。この伝統を反転させる必要性は見いだせない。
 こうしたことを考えるにコロナは絶好の機会であったと言える。ボクなどはそう思うが、岸田さんはコロナから違う教訓を得たのだろうか。ならばまず、それを語るべきである。一国のリーダーから、哲学、理念を聞きたい。岸田さんは世襲の皇帝ではない。国民主権で選んだリーダーなのだから。

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