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3/n シン・フルチゼル(角刃)の話 チェンソー、ソーチェーン(チェンソー用チェーン)、目立ての正しい理解

ソーチェーンサービスジャパン(略: SSJ)です。

SSJは当事業体の宣伝も兼ねて、タイトルの記事をシリーズ化してnote上に公開することにしました。本記事の内容はXアカウントのhttps://twitter.com/SSJP2023 固定ツイートで先行公開していますが、noteで公開する内容は、Xアカウントで公開中の資料 「4D Sawchain Study」の「 V.1.25」以降の内容となります。

2/nの手研ぎの続き…フルチゼルとセミチゼル(角刃、丸刃)

 「フルチゼル(角刃)の目立てはセミチゼルやマイクロチゼルに比べて難しい」、と言われる理由について解説します。このコラムに辿り着いた意欲ある方なら必ずどこかで聞いたことがあると思います。

目立て動作の違い

マイクロチゼル(左)、フルチゼル(右)をデプスゲージ側から撮影した画像

 それぞれの同じピッチ(≒同じサイズ)のカッターの頂点の位置をWC(ワーキングコーナー)と示した範囲内の★印で表しています。頂点とは反対側、つまりトップエンドまでの直線距離がフルチゼルの方が長いことが、フルチゼルの目立てを難しくする第1の原因です。丸ヤスリで目立てをする際の直線ストロークの距離が長くなるので、研磨する面を均一に仕上げる難易度が上がります。

目立て角度のイメージ図

 直線距離の違いは1㎜以下であり、それだけでそんなに変わるものか?と思うかもしれません。しかし、頂点の鋭さからデプス、ゲージ、丸ヤスリのサイズまで、1㎜以下の違いで結果が大きく変わるのがチェンソーとソーチェーンです。それでも「うーむ…」という方は、「ビリヤード」をプレイしてみると良いでしょう。「キューでボールの狙った1点を突き続ける」という動作が目立てに共通するのと、クッションからの返りまで含めると思いのほか難しいことが実感できると思います。

仕上がりの違い

 フルチゼルとセミチゼルでは全てを同じ角度で研いだとしても、仕上角度、特に横刃仕上角(横刃目立角とは違うので注意してください)が変わります。「横刃は〇〇度くらいに~…」というのも、このコラムのここまで辿り着いた意欲溢れる方なら必ずどこかで聞いたことがあると思います。数値を信じ過ぎることは要注意です。

左列がオレゴン、右列がスチール
上段は新品フルチゼル、下段は新品セミチゼルの比較

 メーカー製造時の角度については「2/n」で解説したので、ここでは左列のみに注目してください。頂点から僅かに下、水色矢印部分の仕上角度が異なります(セミチゼルの方が鈍い角度になっています)。カッターを外側から見た場合の差は次の画像のようになります。

※画像はフルチゼル比較です。カッターの頂点から下側に伸びる辺の角度が異なります。フルチゼルとセミチゼルでは更に顕著な差になります。

「フルチゼルとセミチゼルでは最初から研ぐ角度が違うんじゃないの?」と思われるかもしれませんが、そのとおりです。設定角度が違います。製造時のフルチゼル設定の角度でセミチゼルを研ぐと横刃仕上角は鈍くなります(より垂直に近付く)。逆に、製造時のセミチゼル設定の角度でフルチゼルを研ぐと横刃仕上角は更に鋭くなります。←文章の内容が全く逆でした。申し訳😘この仕上がりの違いが基礎設計≒ジオメトリーです。頂点を上から見た場合のWCの幅で、同じ角度で研いだとしても仕上がりの角度が変わってきます。

カッター形状ごとの頂点とWCの比較
同じ「フルチゼル」でも正面から見たサイドプレートの絞り具合=ジオメトリーでも横刃仕上角は変わります。

 元からある差を認識しないで、数値ばかりを気にしているとまたしても「あれれ〜?おかしいぞ〜??」と疑心暗鬼に陥ってしまいます。尚、横刃仕上角を変化させると、上刃仕上角
や、上横の切削角、マウントボリュームも連動して変わるのは避けられません。リタッチで修正しようとしてもWCの鋭さを潰すだけであまり良い結果を生みません。

カッターの動きの違い

 ここまで読んで理解するのにそろそろ疲れてきましたね。私も疲れてきました。でも、フルチゼルと手研ぎについてもう少し解説します。

1つのカッターが木を切る動き

ソーチェーンとカッターは木を切る時にガイドバーのレールにぴったりと張り付いているわけではありません。張りと押し付けで大小が変わりますが、ピョコンとジャンプします。上の画像のHit~Jumpまでを更に分解すると、次の画像のように段階的に木の中にカッターは進入していきます。

左: トッププレート全体が入るまでの段階図
右: 左を更に分解し、頂点からWCが入るまでの段階図

 右側の画像に注目すると同時に次の画像を見てください。

カッター形状ごとのWC幅の比較

 一番右側のフルチゼルには上から見た時のWCの幅がありません。1つ前の画像、トッププレート全体が木材に侵入するまでの間、フルチゼルのカッターの軌道は横外側に不安定なのです(フルチゼルで切ると木材表面に筋が出るのはこれが理由です)。フルチゼル以外はカッターが横外側に向かおうとしても、頂点に続いて段階的に木に進入していくWCによる抵抗がカッターを内側に向けようとし(切り口を見るとスプーンですくったような大なり小なりの断面が出ます)、サイドプレートの側面も突っ張り棒のように働きます。
 この横外側への動きはカッターの種類に関わらず、まっすぐ切れている時でも必ず発生するのですが、カッターが横外側に不安定になり過ぎるとどうなるのかというと、バーのレールにドライブリンクの側面が「必要以上に」押し付けられるようになってブレーキが掛かる状態になります。余計な横向きの力も掛かるので頂点の摩耗による切れ味の低下も早くなります。ミニ四駆やマリオカートに置き換えて考えると、ストレートセクションで壁に当たりながら走るのと一緒です。当然スピードは遅くなります。

上刃の辺の長さによる負荷の違い

それを左右で揃えるということです。

 カッター1つに焦点を当てても、フルチゼルの目立てが難しいと言われる理由がお分かり頂けたと思います。左右のカッターの仕上がり差の許容範囲もフルチゼルは当然厳しくなります。また、セミチゼルからフルチゼルに切り替える際は本体やバー長はそのままであることが大半であるので、目立て精度の許容度はそれまでの比較で更に下がります(チェーン以外の直進の慣性が変わらない為)。
 最後にフルチゼルとそれ以外の切削スピードの違いについて、よくある説明図とは違った図を追加で示します。またしても機械研ぎの話は4/nに続くこととなります。

曲線が交互に


フルチゼル同士でもメーカーや品番で異なる違いは8/nをどうぞ。

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