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『学習する社会』#14 2.知ること 2.3 することについて (3)観察される行為 (研究的なシリーズエッセイ)

2.知ること

2.3 することについて

「知ること」を知るために「すること」に目を転じ、#13ではシュッツ(1970)の行為概念について言及した。そこでは「回顧された」まなざしでとらえられることが一つの鍵となっている。今回は、心理学の行動概念に目を転じて「すること」について考えてみたい。

(3)観察される行為

TOTE単位

動機付け理論の中心的な研究者であるデシ(E.L.Deci、1980)は、ミラー/ギャランター/プリブラム(G.A.Miller,E.Galanter & K.H.Pribram)が提唱するTOTE単位(図表1)に依拠して、目的を達成しようとする自己決定された行動を取り扱っている。なお、心理学では行動という用語は使われても、行為という用語は専門用語としては使われない。ここでは、行為概念を検討するために心理学の行動概念を社会学的な行為概念と捉え、「行動」という用語を用いて行為についての話しを進めることにする。

図表1 TOTE単位
デシ(1980)、訳書p.66より作成

TOTE単位の考え方では、人の行動を目的的なものととらえる。目的を基準として、人は定期的に自己の状態を検査する【Test】。基準と状態に不満足な違いがあれば、その違いを低減するように何かを作動させる【Operate】。再び、検査して【Test】、不満足な基準と状態の不一致を解消するまでこれが繰り返される。この不一致がなくなれば、この繰り返しを終了する【Exit】。もちろん、人の行動のすべてがTOTE単位で説明できるような自己決定された行動というわけではない。行為に先行する意図が常に明確であるとは限らないし、意図が常に実現されるわけでもない。

自己決定された行動

デシは自己決定された行動を含めて行動を三つの範疇はんちゅうに分けている。第一の範疇は行動が物理学的あるいは生物学的原理によって完全に決定されるものである。誰かがある人を強打すればその人は転倒することになる。そこには自ら決定を下す自律性はない。あるいは膝蓋腱反射しつがいけんはんしゃのような場合もこの範疇に入る。第二の範疇は機械的行動(automated behavior)である。機械的行動はさらに二つに細分される。自動化された行動(automatized behavior)と自動的行動(automatic behavior)である。どちらの行動もさほどの注意もされず、明白な計画もされずに生じる。第三の範疇が自己決定された意志的な行動である。

自動的行動と自働化された行動

二種類の機械的行動の相違は、行動手順の自動化を再構成することの容易さにある。自動的行動は再構成が困難で、非意図的な行動である。衝動的に食べたり、喫煙したりする行動や癖などがここに含まれる。自動化された行動は再構成が容易であり、自己決定される行動の領域に戻すこともできる行動である。例えば、自動車を運転する行動がこの種類に含まれる。自動車を運転する場合、日常的には運転そのものについてはさしたる注意を払わない。しかし、道路状況が日常とは異なる(例えば雪道を走る)場合、運転そのものに注意を向け、運転の手順を再構成する。

図表2 自動化された行動と自動的行動
デシ(1980)、訳書P.85

自動化された行動と自動的行動の相違は動機の相違に求めることもできる(図表2)。自動化された行動は達成したい目標という意識的動機の達成のために自動化された行動を呼び出すのである。したがって、自動化された行動であれば、その呼び出す行動を意識することで再構成することが可能となる。他方、自動的行動は目標という明白に意識できる動機をもたない。自動的行動によって何を充足できるかも意識できない。したがって、自動的行動は再構成するように意識できないことになる。いずれにせよ、我々が行う日常的な行動にはこれらの機械的な行動が多い。

今回の文献リスト(掲出順)

  1. Schutz, Alfred (1970) On Phenomenology and Social Relations (Edited by Helmut R. Wagner), University of Chicago Press. (森川眞規雄/浜日出夫訳 (1980) 『現象学的社会学』紀伊國屋書店)

  2. Deci, Edward L. (1980) The Psychology of Self-determination, Lexington Books. (石田梅男訳 (1985) 『自己決定の心理学』誠信書房)

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