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オマケに戸惑う。

(職場にお弁当を売りに来るおばちゃんが、ちょっと話しかけてきたり、フレンドリーになってきて、ああ、そういえばこんなこともあったよなあ、と以前の記事……)

たまに職場近くのほか弁でお昼を買う。
注文するのは、大抵、幕の内とか、から揚げとか、カレーとかいった「すぐできる系」のお弁当。
カウンターでお弁当を受け取ると、さっさと店を出る。
ある日、いつものようにカレー弁当を注文し、しばらくして手渡された袋の中を見ると、なぜか、ごはんの上に、から揚げが一つのっかっていた。
(あらら、からあげカレーを注文したつもりはなかったけどな)
と、怪訝そうにしていると、店員のおばちゃんが
「これ……サービスです」
と少し照れくさそうに言った。
自分も「ああ、どーも、すみません」とお礼を言ったが、思いがけないオマケに、何だかこちらまで照れてしまった。

それ以降、おばちゃんは、幕の内弁当を注文すると魚のフライを一つ入れてくれたり、また、ある時は、ごはんを少し多めにしてくれたりと何かとオマケをしてくれるようになった。
また、ある時、おばちゃんは、「あのビルにお勤めの方ですか?」なんてことを聞いてきたりもした。
職場でこの事を話すと、周囲は「えーっ、私、そんなことしてもらったこと無いですよぉー」とか「もしかして、そのおばちゃん、〇〇さんに気があるんじゃないですか?」などと冷やかされた。
(そりゃあ自分も、マックとかでバイトの女の子からそんなことされたら、俄然その気になるけど。何せ、自分の母親くらい年が離れたおばちゃんだし。いや、これは失礼!)

なぜ、おばちゃんは自分にオマケをしてくれるのか?
「作家」としての見立てはこうだ。

おばちゃんには、自分と同じ歳くらいの息子がいる。
もうずいぶん昔、就職で都会に出て行き、そして向こうの女性と結婚し、家庭をもつ。
しかし、いろいろあって、数年前に離婚、子供たちは母親を選ぶ。そして、今、都内のアパートで独り暮らしをしている。
そんな息子から、たまに電話がかかってくる。
「お前、いつも何食べてるんだ?」
「やっぱり、自炊は面倒だから、コンビニとかほか弁が多いな」
「ちゃんと栄養を考えて食べるんだぞ」
「ああ、わかってるって。それより、おふくろもいい年だし体には気をつけろよ」
「うん、ありがとうよ」
「ああ、今度の正月は帰れると思う。ここ数年、仕事が忙しくて親父の墓参りにも行ってなかったし……」

そんなわけで、おばちゃんは、たまにやってくる客である自分に息子の姿が重なり、つい、オマケをしてしまうのだった。
(ちょっと、重松清先生っぽくなってしまった……)

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