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【読書】 ディス・イズ・アメリカ 「トランプ時代」のポップミュージック 高橋 芳朗著

グラミー賞を中心として2014年~2020年上半期のアメリカポップミュージックを政治的な視点で追った本。アジェンダとしては「LGBTQ」、「BLACK LIVES MATTER」、「銃乱射事件」、「# MeToo」「移民排斥問題」などをトピックとしてとりあげている。

自分は「音楽に政治を持ち込むな派」ではないものの、普段向き合ったことのない重いテーマをNoteに書くことにたじろいでいるのが本音である。そういう態度事態が老害なのだろうなと反省しつつ何とか読了。

本著で登場するアーティストは以下のとおりで、トピックに関連して紹介されてる巻末のプレイリストは100曲を超えるボリュームがある。

主な登場アーティスト

テイラー・スウィフト、ビリー・アイリッシュ、アリアナ・グランデ、ビヨンセ、ケンドリック・ラマー、マドンナ、ブルース・スプリングスティーン、ジェイ・Z、リゾ、リル・ナズ・X、ザ・チックス、ケイティ・ペリー、カーディ・B、デュア・リパ、ニール・ヤングほか

2014年オバマ大統領の2期目。現職の大統領としては初の同性婚を認める発言するとともにLGBTのアメリカ人のためのインクルージョンを推進。それを受けてグラミー賞はLGBTのサポートを表明するメッセージが発せられた。

2015年、史上初の黒人大統領が誕生してもなお黒人差別は根深く白人警官による暴力行為が社会問題化した。2016年グラミー賞ではケンドリック・ラマーの『To Pimp a Butterfly』が最優秀アルバム賞を逃したことにより、黒人アーティストのグラミーへの不満が頂点に達した。この出来事は2019年の『This Is America』でグラミー賞4部門受賞をしたチャイルディッシュ・ガンビーノのグラミー賞出席拒否につながる。

2016年はビヨンセがアメリカの国民的行事スーパーボウルのハーフタイムショーで政治的なメッセージの強いパフォーマンスを行いニュースになる。黒人解放運動ブラックパンサー党のオマージュ衣装を着たダンサー達とともに「Formation」を披露。ポップスターとして既に大成功をしているビヨンセがここまでするほどにアメリカ社会が混迷を極めたともいえる。そのような年に迎えた大統領選挙の結果は知っての通り。

◆ Beyoncé & Bruno Mars Crash the Pepsi Super Bowl 50 Halftime Show | NFL

このように時代順にその時の社会問題に対して世間と音楽が相互作用していくアメリカのポップミュージック史を追えるので理解しやすい本になっている。

Netflixで配信しているテイラー・スイフトのドキュメンタリー『ミス・アメリカーナ』にも触れていて、興味を持ったので観てみた。テイラー・スイフトは、カントリーミュージシャンとしてデビューし成功を収めてきただけにカントリーミュージックを好む保守層の反発を招く言動は控えてきた。これには前例があって、カントリー出身のチックスがイラク戦争時のジョージ・W・ブッシュ大統領を批判したことにより、保守層の猛反発を受けてアルバムの不買運動やラジオ局から干されたことがある。だから、テイラーは周囲の奨めもあってお利口さんという仮面をかぶらざるを得なかった。

政治的な発言をすることは保守層のファンを失うことでもあるし、大炎上を起こすことになる。それでも、ついにテイラーは2018年10月7日にテネシー州の中間選挙の投票を呼び掛ける長文をインスタグラムに投稿する。その勇気ある決断の瞬間を収めた映像を見ることができる。

『ミスアメリカーナ』


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