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記憶

「よく出来てるわ、こんなのもあるのね」

こどものままごと用のガムのおもちゃを

彼女に手元に差し出されたとき

反射的に思わず手を引っ込めてしまった

「どうしたの?」と彼女が驚いて訊く

パッチンガムといういたずら用おもちゃがある

人にガムを勧めて

ケースからガムをつまんで引き抜くと

仕込まれていた金具にパチンと指が挟まれて

痛い思いをするというおもちゃだ

僕は彼女にガムのおもちゃを差し出されたとき

そのいたずらにまんまとハメられた記憶が甦ったのだ

よくもこんなことを憶えていたものだ

僕はいたずらに騙されやすい

ともするといたずらされていることに気が付かず

おかしいおかしいと思いながら

最後までいたずらと気が付かないようなところがある

子どものころクラスのいじめっ子に

このパッチンガムを使って指を挟まれたのかもしれない

具体的には思い出せないが

潜在意識は正直なもの

その記憶が甦り思わず指を引っ込めてしまったのだ

こどもの世界は残酷だ

一度いじめのスパイラルに入ると

何度でもいたずらを仕掛けられる

いたずらされて笑われたときの

あの嫌な思いの記憶

パッチンガムそのものの記憶より

そのときの感情の方をはっきり憶えている

持って行き所のないあの感情あの感覚

それが僕の今が出来上がる動機だった

いつか見返してやろうと思った

その同級生の消息は知らない

そいつが成功していたら

落ち込むんだろうな

僕はいまだに変わらない

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