金閣炎上

今朝のBS「アナザーストーリー」再放送
金閣寺がテーマ。
今、私がちょうど読んでいる本。
「金閣寺の燃やし方」酒井順子さん。

放火犯の林養賢は吃音がひどい。
番組では吃音の悩みは問題にされていない。
お寺の生活で吃音は、一般社会よりも軽くなる。

しかし、
養賢さんの悩みは深い。
生きることに行き詰まるという心境だと思う。
これは、私も良く分かる。
私の青春も同じ状況だったから。

放火の前、養賢さんは住職に尋ねているようだ。
生きる意味はどこにあるのか?

住職はうまく答えられなかったのだろう。
放火事件のあと、住職は悔やんだと思う。
もっと親身に対応していれば、と。

人だから、望んでもできないことが多い。
そして、事件のあと、
養賢さんを助けることもできなかったのだろう。

監獄から何度も助けを呼び掛けているが、
応じることはできなかったのだろう。

人の一生を眺めるとき、
私が気にするのは、
その人が、その人だけの特性や個性を
目いっぱい発揮したのか、どうか。という視点。

各人の個性は多様で、
もちろん、一つではない。
どれもが個性と言えるかもしれない。
しかし、多面的な個性の中で、その人らしさを一番際立たせてくれる、
そういう点があると思う。

そこを発揮できたのか、どうか。それがポイントだ。

例えば、先日のBSで見た山本寛斎。
この人は、まさに個性を伸ばした人にあたる。
ファションやエンターテイメントの世界では、
目立つことが出世の条件。
個性にぴったりの生き方だろう。
心残りは微塵もないだろう。

水上勉も同様だ。
口減らしのために9歳で寺に奉公に出された。
そこから学校に通った。大学は夜間。昼間は仕事。
旺盛な性欲を五番町遊郭で満たす。
この経験が後に小説の肥やしとなる。

大学は中退、仕事関連で満州にわたり、
結核を患い内地に戻る。
休職中は月給がでたので、小説を読みふける。
戦争中で兵隊に、幸運にも終戦間際に招集解除。
それからも大変な生き方だが。
40代でやっと作家として暮らせるようになった。

「金閣炎上」は水上の代表作。20年に及ぶ下準備。
小説冒頭で、養賢さんとの出会い。
これはフィクションだいう。
9割は事実を書いたと水上は述べている。

水上勉さん、世間から見れば、かなり自分本位な生き方。
しかし、個性は存分に発揮されている。
満足できる人生だっただろう。

養賢さんの生き方はどうだろう。
母親の自殺は相当に応えたはず。
結核の悪化で生きる気力を失ったのだろう。
刑を終えると間もなく死んでいる。

もし、私が天国で出合えば、
よくやったと褒めてやりたいのだが。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?