決算短信概要_JVCケンウッド_2023年3月期_3Q

2023/2/1(水)に発表されたJVCケンウッドの決算短信について、内容の分析を行う。

●発表後の市場の反応

決算の内容を確認していく前に、チャートの動きから市場の反応を分析する。決算発表翌日の2/2(木)は、終値ベースで5.43%であったが、2/3(金)には2/1(水)比14.52%と株価が急伸した。

よって、市場からはポジティブな内容であったと判断されていると考えられる。


●急伸の要因

今回の急伸の要因は下記の2点であると考えられる。

①営業利益の急増
②株主還元方針の変更


●営業利益の推移

JVCケンウッドの営業利益の推移は、2022年3月期1Qから下表のように推移している。

表1. 営業利益推移

2023年3月期1Qは大きく減少しているものの、2Q、3Qで前年同期比で大きく営業利益が増加していることがわかる。



●営業利益の増加の要因

2022年10/31(月)発表
の2023年3月期の2Q決算短信を確認すると、モビリティ&テレマティクスサービスセグメントとパブリックサービスセグメントで、コア営業利益が大幅に増加していることがわかる。

表2. 売上高・営業利益比較(2Q累計)

この増加の要因は、モビリティ&テレマティクスサービスセグメントにおいては、半導体などの部品不足の改善上海ロックダウンの解除による生産・販売の回復、パブリックサービスセグメントにおいては、米国の公共安全市場の需要が堅調であることに加え、世界的な無線機需要の拡大により販売が好調に推移したためと記載されている。
この営業利益の増加により、株価は引けストップ高となり、36.92%急伸した。

2023年3月期の3Q決算短信を確認すると、2Qに引き続きモビリティ&テレマティクスサービスセグメントとパブリックサービスセグメントが業績を牽引していることがわかる。

表3. 売上高・営業利益比較(3Q累計)

この増加の要因は、モビリティ&テレマティクスサービスセグメントにおいては、OEM事業自動車向けスピーカー・アンプ・ケーブルなどの販売拡大、アフターマーケット事業で半導体不足の解消、テレマティクスサービス事業ドライブレコーダー等の商品の堅調な販売、パブリックサービスセグメントにおいては、2Qとほぼ同様の内容が記載されている。


以上より、2Qからの米国の公共安全市場の堅調な需要増を柱として、自動車関係の商品の販売が営業利益の増加に大きく寄与していることがわかる。いずれのセグメントも、累積のコア営業利益が2Q→3Qでおよそ倍になっており、その好調さがうかがえる。


●株主還元方針の変更

2023年3月期の3Qの決算発表と同時に、「配当予想の修正および株主還元方針の変更に関するお知らせ」が適時開示されている。

特に注目したいのは、株主還元方針の変更である。
変更前は、"配当性向30%を目安とした剰余金の配当"をとなっていたが、変更後は"総還元性向を指標"として、"業績に応じた株主還元策とした配当"と"機動的に自己株式取得を行う"とアナウンスされた。

3Q決算短信によると、発行済株式数約1億6000万株目標当期利益160億である。

①総還元性向を従来の30%から引き上げて40%としたとき
配当および自社株買いで使用できる金額は160億×40%=64億。
配当12円なので、配当分を差し引くと、64億-19.2億=44.8億。
株価400円とした場合の購入できる自社株式数量1120万株
これは、発行済株式総数の約7%にあたる数値である。

②総還元性向を従来の30%としたとき
配当および自社株買いで使用できる金額は160億×30%=48億。
配当12円なので、配当分を差し引くと、48億-19.2億=28.8億。
株価400円とした場合の購入できる自社株式数量は700万株
これは、発行済株式総数の約4.3%にあたる数値である。

★前提条件の変更
3Q終了時で、目標当期利益160億に対し、155億の累積利益となっている。(進捗率:約96.9%)したがって、業績の上方修正が発生すると考えられる。なんの根拠もないが、仮に、上方修正が30%発生したと仮定すると当期利益は208億となる。(4Q単体で53億、3Q単体では100億超であったので十分現実的な範囲内)

この条件で総還元性向40%としたとき
配当および自社株買いで使用できる金額は208億×40%=83.2億。
配当12円なので、配当分を差し引くと、83.2億-19.2億=64億。
株価400円とした場合の購入できる自社株式数量は1600万株
これは、発行済株式総数の約10%にあたる数値である。

ちなみに発表によって株価が600円に上昇したと仮定すると
購入できる自社株式数量は約1000万株となり
発行済株式総数の約6%にとどまる数値である。


●まとめ
JVCケンウッドの営業利益増加の理由は、米国の公共安全市場の堅調な需要増と、自動車関係の商品の販売が好調であるためである。
また、株主還元方針の変更について、発表では総還元性向の具体的な数値について触れられていないが(当期終了後に発表)、発表されている目標当期利益を基準として考えると、総還元性向40%としても、自社株買いは発行済み株式数の7%程度となる。

●所感
株主還元方針の変更は、総還元性向の具体的な数値目標について触れられておらず不安を感じるが、業績に応じた株主還元策とした"配当"というところで、株式を長期保有してもらおうという経営陣の意図が伝わってくる。かなり株式が希薄化しているので、積極的な自社株買い・株式償却を実施してほしい。

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