アート思考とドラッカーは親和性が高い ―COMEMO“不確実性の時代にアート思考をどう活かすか”―
ピカソもウォーホルもデュシャンも、衝動的にアートを作っているわけじゃない。絶対に戦略とかセルフブランディングを練った上で“衝撃作”をつくっているのです。
――市原えつこ(メディアアーティスト)
個人の経験や情動に根差す「アートの個別性」と、市場シェア獲得・収益性拡大を目指す「ビジネスのスケーリング」は両立するのか?
この問いに対する市原えつこさんの答えが冒頭の言葉です。いくらアートが具体的な課題やニーズから生まれるものではないとはいえ、ただ単に独創的なことをやっているだけではないんだよと。
アートってストイックな美の探求「だけじゃない」んだ!と感動した直後。そのあとに市原さんが語ったこぼれ話が本当に面白くて。
とはいえ、スケールしないだろうな~~~とは思いながらも作ったものが逆にバズってスケールするパターンが多い気がする(笑)
アート思考とドラッカーの接点
スケールしないものとはつまり、個人的な衝動をひたすら突き詰めたもの。ビジネスとは対極に見えるピュアなアートが、なぜかえってスケールするのか?
この問いを解く手がかりは、実はドラッカーの思想にありそうです。アート思考とドラッカーの接点を探るために、まずは市原さんが提示してくれたカギとなる概念をご紹介。
いま生きている「わたし」は、皆と同じ「時代」を生きている存在
一方、ドラッカーの「5つの質問」では、「顧客は何に価値を感じるのか」を考える問いがあります。ただし考えるといっても、自分で勝手に仮説を立てるのではなく、顧客に直接答えを聞けというんです。
憶測してはならない。顧客のところへ行って答えを求める作業を体系的に行なわなければならない
――ドラッカー『現代の経営』
市原さんが語るように、わたしと時代がもはや「一にして全」な捉え方をするならば、同じ時代を生きている顧客の答えは「わたし」に聞けばいい。だからこそ、徹底的に自分を表現したアートがむしろスケールするのだと思います。「時代の中にいるわたし」を突き詰めた表現ならば、そこには必ず時代の普遍性との接点が紛れ込んでいるから。
「5つの質問」はアートな組織の行動指針
そして「5つの質問」は、よく見ると主語のほとんどが「われわれ」。
もちろんアーティスト個人の内面を掘り下げるフレームワークとしても「5つの質問」を使う余地はありそうですが、チームでアート思考をする際の認識合わせにこそ活かせると思います。
ドラッカーの「5つの質問」
第1の質問:われわれの使命は何か
第2の質問:われわれの顧客は誰か
第3の質問:顧客にとっての価値は何か
第4の質問:われわれの成果は何か
第5の質問:われわれの計画は何か
使命は「時代の常識に、新しくユニークな価値観を問いかけること」。
顧客はわれわれ自身であり、時代(社会)そのもの。
顧客の価値は、アート思考を掘り下げていく中で決まるもの。
ただし自らの体験(個別性)に根差すものでありながら、時代との接点(普遍性)が備わっていることが必要。
成果は、問いを投げかけることで時代に生まれる変化や波紋。
そして計画は、アート思考を具体的な表現に昇華・具現化していくこと。
特に組織でのアート思考と「5つの質問」の親和性が高いポイントは、第4の質問。
売上・利益など経済面ではなく「われわれのアートが生むべき影響」を成果として明示的に設定できることだと考えています。
つまり、アートな組織がビジネスだけに傾倒して本来の使命を見失うことを防げる。チームが足並みを揃えて、時代に投げかけるべき問題提起の指針をつくれる。そういう意味で、アートな組織のマネジメントにドラッカーの「5つの質問」は強力なフレームワークになると思いました。
おわりに代えて
「アート思考」とはなんぞや?デザイン思考とはどう違うの?
それくらいの興味で参加したこのイベント。詳細はCOMEMO森下さんのnoteが詳しいです。
かしこ
参考文献:山下淳一郎『ドラッカー5つの質問』(あさ出版)
#curryengineering と称して出張カレー屋をやってます。サポートはレシピ開発費(食材費・名店調査費)として大切に使わせていただきます! スキを押したら、僕が好きなカレー屋が分かります。全10種類。