【感想】枕草子のたくらみ

枕草子のたくらみ 「春はあけぼの」に秘められた思い
著 山本淳子

この本を手に取ったきっかけはFGO。
2020年のバレンタインイベントで清少納言の実装。
それだけなら手に取りはしなかったし、ここまで清少納言にはまることもなかった。
私が尊敬しているたらればさんという編集者の方がいて、
その方のつぶやきで、この本がおすすめされていた。

もともと「うた恋い。」という作品が好きで、
とりわけ清少納言にまつわる話でまとめられている3巻が一番好きだ。
実は枕草子自体のビギーナーズクラシックを持っていたりする程度には好きだった。

そこに今回のバレンタインイベント。
最初こそ、やたら陽キャなパリピが来たなくらいだったのだが、
たらればさんの解説や、自分の記憶の中の情報とか、
そういうのが合わさり、なおかつ、
FGOにおける彼女の天真爛漫さとその中に見え隠れする優しさや、強かさに
引き込まれていった。

気がつけばめちゃくちゃ好きなサーヴァントになっていた!!
もともと他のサーヴァントに比べて事前知識があったことなども大いにあるけれど、
それ抜きでも、FGOにおける彼女のキャラクター性を愛さずにはいられないよね!!
明るさの中に、覚悟とか秘めてる人は大変よい。

前置きが長くなったけれど、
こんなわけで、彼女のことをもっと知りたくなってこの本を読むことにした。

結論としては、最高というほかない。
普段この手の本は割と読むのに時間がかかって、一気に読めないことが多いけれども、
面白くて、2日程度で読んでしまった。
たらればさんのおすすめしている、この方の他の著書も読むことは確定した。
ついでに、古今和歌集や大鏡、紫式部日記など、
関係する古典作品も読みたくなった。
源氏物語は、漫画の「あさきゆめみし」を高校時代に読んだくらいなので、
今一度読み直しとかしたい。

やっとこさ、中身の感想。

序盤の1~2章分くらいですでに尊い気持ちで満たされるなどした。
「春はあけぼの~」これに連なるごくごく短い言葉たち。
教科書にも載っているからほとんどの人が知っている。
でも、この言葉に託された多くの思いを当時知らなかったなと。
ただただ、美しい瞬間を切り取ったのだと思っていた。

春と言えば桜だけれど、その姿はなく、
でも雅びの世界から外れたわけではなくて、
「古今和歌集」に「春」と「朝」の組み合わせがあり、それを根拠にしている。
そこがまずすごい。
さらに本の冒頭に当たる仮名序というものが四季で始まっていて、
それに合わせて「春は~」を最初に持ってくるというところ。
最初に四季について述べることで「古今和歌集」と同じく、世界の安寧を見渡し、その先を行かんとする心意気がかっこいい。
「漢籍」の方法と同じく天象(天気とか空のあれそれのことでいいのかな)からはじめることで、定子様のことを示すとかえもい。
紫雲がめでたいことの兆しで、天皇家のこと、中宮の暗喩だなんて、
これ以上ない始まりなのでは??
天才だ…。それに気づく人たちもすごい…。
夜明けの美しさで始まるっていうのが、
今ここから始まるという感じがして素敵だ。
夜明けと言えばFF15を思い出して切なくなる。

紫式部は清少納言を批判した。
スタンスとか諸々自分とは違っていて、ありえない!とか思ってたのも
きっと本当なんだと思うけど、
ほぼ同時代を生きていて、枕草子の背景を知るだけに、
どうして、そんな風にいられるのかという気持ちもあったのかな、と。
源氏物語には、枕草子の影響や、定子様がモデルになったと言われているくらいだし、ただただ嫌っていただけではないんだよなあきっと。
尊敬とか嫉妬とか立場とか色んな気持ちがきっとないまぜになっていたのかなって。

この本を読んで感じたのは、
清少納言は自分の生き方を信じた人なんだなあと。
本心ではそうではない部分もあったのかもしれないけれど、
少なくとも枕草子の中ではそうあろうとしたのかなと。
自分の生き方は、人生は幸せだと肯定することで、
定子様に会えてよかったと、定子様を肯定するためにも。
たとえ最期が悲劇であったとしても、一時でも幸せだったことは嘘ではないから。

機知に富み、明るい清少納言も
参内したての時は緊張してしまうし、いじめられて引きこもってしまうのも、とてもありふれたふつうの人なんだなあと思えて親近感がわく。
定子様のために生きてるような彼女が、
定子様が一番辛いのも十二分にわかっていながらも、
側にいられなかったというのは、本当に相当辛かったんだなあと。

「FGO」でも出てきた「言はで思ふぞ」
清少納言にとって定子様が光だったように、
定子様にとっても清少納言が光だったのかなあと。
相思相愛。
周りが、敵と通じていると言おうとも、彼女を信じ続け、
出てきてほしいと伝え続けた定子様すごい。
二人の絆の強さよ。尊すぎる。

一見、自分に自信があり、勝ち気で明るいように見える清少納言。
それも、彼女の側面として確かにあり、そうあろうともしたのだと思う。
けれども、一部見え隠れする、あまり具体的には描かれない弱さ。
この本がそういった部分を、歴史的背景や、小さなヒントから
読み取っているのが本当にすごい。
おかげで、彼女やひいては定子様、枕草子というもの自体の魅力が
めちゃくちゃ増した。
清少納言はちゃんと弱さもコンプレックスも抱えていて、
その中で定子様と出会って、成長して、
自分の居場所とか、役割を得られたことがうらやましい。
彼女自身の努力ももちろんあるけど、
それだけでは今よりどうにもならない時代に、
運を手にして、それに乗れたことが素晴らしい。

16章を読んでふと思い浮かんだ言葉がある。
読みたいなと思いつつ読めていない本のタイトルで、
とても好きな歌の歌詞にもある
「たった一つの冴えたやり方」
このタイトルがどうしてつけられたとか、背景も中身もしらないが、
そのままの意味として、
清少納言にとって、定子様にできる、
最大にして最高の、最良の方法が枕草子をつづることだったのかなと。

枕草子は、一条天皇にとっても、
愛する人との幸せな瞬間が残されたとても大事で、
貴重なものだったことだろう。

ところで彰子様はどんな人だったのだろう。
名前は出てくるけど、どんな人だったとかいうのが
全然わからなかったなあ。
どんな気持ちでいたんだろう。

この本の最後が紫式部の言葉で締めくくられてるの最高。
枕草子をさらに知るためにも源氏物語を読み直したい。

なんというか
――――その日、清少納言は運命に出会った。
って感じだな!!
運命でしかない。


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