TEN colorsの中の人 スタッフA

今日も、私の部屋の窓は閉まっている。

カーテンは、毎朝かろうじて開けているけど、すりガラスの窓からは、外の景色は、ぼんやりとしか分からない。
それでも、窓を開けることはしない。
だって、外にはどんな怖いことがあるか分からないし、外が見えなくても、自分の部屋にいれば安全だ。

…でも。
外の世界を見て見たい気持ちも、心の奥底にずっとあることに、自分でも気づいている。

そんなある日、なんとか勇気を出して、少しだけ窓を開けた。
ほんの少し、自分の目だけ、その隙間から見えるくらい。

すると、一気に部屋の中に、音楽が流れこんできた。
小さな隙間から下を覗くと、路上で演奏している人たちが少しだけ見えた。

伸びやかで、少しハスキーな女性の声と、それに合わせて弾むギターやサックスの音。
あまりにその音が自由で、楽しそうで、私はもう少し窓を開けてみる。
演奏している人たちの、全景が見えた。
ボーカルの女性は、楽しそうに、軽やかに、英語の曲を歌っている。
聞いたことがある曲な気がするけど、演奏者たちと目を合わせながら、彼女は即興でアレンジしていく。
だから、私が知っている曲と、同じ曲かは正確には分からない。
でも、曲を聴いているだけで、自分の心も身体も軽くなる。
自由で、温かな音楽。

すると、次の瞬間、ボーカルの彼女と視線が合った。
私は慌てて、窓を閉めた。音も、ぴたりと止んだ。

それから私は、たまに窓を開けて、彼女たちがいないか、覗いてみるようになった。
もちろん、こちら側は、見えない程度の隙間だ。
彼女たちのバンドがいた日は、窓を開けたまま、音楽を聞いた。

ある日、また彼女と視線が合った。
慌てて窓を閉めようとしたけど、それより早く、彼女の呼びかけが私に届いた。

「楽しいですね〜!」
本当に楽しそうに、彼女は踊りながら、こっちを見ていた。
「そ、そうですね」
そう返して、私は、また自分の窓を閉めた。
びっくりした。心臓が早鐘のようだ。
でも、嬉しかった。

それから彼女は、私が窓を開けているのに気づくと、手を振りながら、声をかけてくれるようになった。
私も窓は閉めず、少しずつ、手を振り返すようになった。
そして、彼女は、窓の下から、私にたくさんの質問をしてくれた。
私は少しずつ、自分の好きなものを話すようになった。
彼女は、歌う時と同じように、楽しそうに人の話を聴いてくれた。

ある日、私は彼女に、
「なんでそんなに楽しそうなんですか?」
と聴いてみた。
「深く考えないからですよ〜」
彼女はそういったけど、それは本当のことであり、本当のことではないと思った。
だって彼女は、いつだって、相手のことをよく見ているし、相手の窓を無理やり開けることはしないからだ。

そんなある日、窓を開けたら部屋の中に鳥が飛び込んできた。
私はパニックになって、慌てて窓の下を見た。
道ゆく人はとても忙しそうで、私の部屋の窓からは、歩いている人の表情までは見えず、その動きを止める勇気もない。

すると、彼女が通りかかった。
今しかない、私はそう思い、彼女の名を呼んだ。
「忙しいのにすみません。今いいですか?」
彼女はその足を止めて、私の窓を見る。
「いいですよ!どうしました〜?」
あまりに拍子抜けする声だった。
その声で、問題は半分くらい解決した気がした。

彼女が私の部屋の玄関のドア開けた瞬間、鳥は羽音を立てながら、彼女の横を通り過ぎ、逃げていった。
「す、すみません…!」
平謝りする私に、彼女は、
「よかったです!」
と言って、笑いながら、そして鼻歌混じりで帰っていった。
私は、安堵の気持ちで深く息を吐き、そのあと、おかしくて一人で笑ってしまった。

それからも、彼女に助けを求める機会があった。
彼女はいつでも、
「いいですよ!どうしましたか?」
と返してくれた。
そして、問題解決をしながらも、最近あった面白かったこと、新しく知ったことなどを話し、帰っていく。
彼女の時間を使ってしまうことに対して、申し訳なく思うこともあった。
それでも、不安な気持ちを「いいですよ」の言葉とともに、受け止めてくれることが、とても嬉しかった。

そんな日々を重ねる中で、少しずつ、道を歩く、他の人の表情が見えるようになった。
以前は気づかなかったけれど、心配そうに、こっちを見てくれている人にも気づけた。
そして、他の人に「助けてもらえますか?」と言えば、「もちろんです!」と返してもらえることもわかった。

私の部屋の窓は、今でも基本は閉じているのかもしれない。
でも、開ける幅も、回数も、前よりずっと増えた。
今までは、自分を助けてくれる人を探すために、窓を開けていた。
でも、もしかしたら、窓の下には、困りながら歩いてる人がいるかもしれない。
いつか私も、そんな人を見つけることができるだろうか。

「大丈夫っしょ!」
と、彼女の声が聞こえた気がした。

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こんにちは。

TENcolorsスタッフPです。
このお話は、2023年7月に入社した私Pと、スタッフAさんをモデルにして書いた物語です。
これまで、スタッフ紹介はAさんが書いていたので、Aさんの回は、私が書かせてもらいました。

スタッフAさんは、多彩です。
話も上手、文章も書ける、誰とも明るくコミュニケーションができて、そして、この物語のように、歌もとても上手です。
でも、Aさんの一番の素晴らしさは、
「変化を恐れず受け止めて進むこと」
だと、私は思います。

Aさんは、新しいことにも臆さず、「わかりました!」と、前に進んでくれる、頼もしい存在です。
とりあえず前に進むことが苦手な私と、Aさんは全然違います。
でも、全然違うからこそ、お互いを補いあう。
それが、私たちTENcolorsの目指す姿です。

みなさんの職場で、隣の席に座っている方の、得意なこと・苦手なことはいくつ思い浮かびますか?

そして、これを読んでくださっている皆さんは、得意なこと・苦手なことを具体的に、隣の人に伝えることはできますか?

そして、自分の窓を開けて「助けて」と伝えることができますか?
その「助けて」は、受け止めてもらえますか?

ただの手前味噌と言われてしまえばそれまでですが、どうか、共に働く私たちの仲間を皆様にも知っていただきたいのです。
そして、一緒にTEN colorsの中をちょっと覗いていただけたとしたら、とても嬉しく思います。

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