青春のシャーペン「S3」について

 いい話だな~~~(あと筆致と熱量がすごい)と思って読んでいたら、記憶の片隅からシャーペンの思い出が湧き上がってきたので、忘れないうちに書いておく。


 私は字を書き始めた瞬間から(というより、それ以前のお絵かきやら線引きからも)めちゃくちゃ筆圧の強い子供だった。実家にいくつか幼少期のお絵かきや小学生の時に作成した漫画・小説ノートが残っているのだが、どれもこれも紙を抉らん勢いの筆跡で記されている。

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(これは参考のために掘り出してきたけど、全然写真だと筆圧が伝わらないし目が若干怖い小4の時描いたドラ)

 そして、その時代の小学生の例に漏れず「学校ではシャーペン禁止」令をくらっていた私は鉛筆をこれでもかと握りしめて文字を書くことに慣れきって、その結果中学に上がってシャーペンが許可された時には「堅い細軸こそ正義。完全に握りしめられないグリップなど悪」という細軸過激派になっていた。

 時代的には、ドクターグリップなど太めで柔らかいグリップのついたシャーペンが手にいいとして盛り上がっていた頃だったので、家には細軸のシャーペンがなかった。そこで私は、理想のシャーペンを探し、その結果、割とすぐにPILOTの「シャープ S3(エススリー)」に出会った。

 細くて、グリップ等がついていないから握ったときに手応えがある。しかも単なるノック式でシンプルだ。(当時確か振って芯を出せるタイプのシャーペンが跋扈してきた時期だったと思うが、私はそういうものを全く信用できておらず、テスト中に芯が詰まって詰むと思い込んでいた)あと何より、クリアボディーでかっこいい。終ぞクリアパープルのゲームボーイカラーを買ってもらえない幼少期を過ごしたが、私のクリアボディーへの憧れはここで昇華された。

 というわけで、私はS3を買った。水色が当時好きだったので、一番水色っぽかったグリーンの種類を選んだ(というかついさっきサイトを見るまでライトブルーだと思い込んでいた)。

 このシャーペンを、私は中学校入学から高校卒業まで使い倒した。授業中と放課後、人目をはばかりながらルーズリーフにS3で文章を書きまくり、上手くできたら帰って自分のパソコンに打ち込み直して保存していた。何故か家だとびっくりするくらい創作がはかどらなかったので、この時代に書いた私の文章の初稿は8割がた学校で書いたルーズリーフである。中学時代に友達とこっそり交換していた二次創作小説から、高校時代に所属していた文芸同好会の原稿まで多種多様な文章をこのシャーペンでこなしていった。受験期は普通に腱鞘炎になっていたが、それでも他のシャーペンに乗り換えることはしなかった。

 そのグリーンのS3を、私は高校の卒業式で無くした。指定ベストの胸ポケットに入れっぱなしにしていたところ、友達と別れを惜しんで抱き合ったりはしゃぎ回っているうちにどこかで落としたらしい。気づいたのは帰る寸前で、心当たりのあるところを探したが見つからなかった。

 きっと清掃の前に落としてゴミ箱に捨てられたか、私が意識もしない廊下の隅とかに転がっていたのだと思う。もう少し探せば見つかったのかもしれないが、私は当時めちゃくちゃ卒業の気分に酔っていたので、自分の青春を高校に置いていくつもりで探さないことにした。結果その後未練が高まりすぎて、そのシャーペンをネタに1本小説を書いて大学のサークル誌に載せたが、それはまたそれである。

 ちなみに、今かろうじて1本持っているシャーペンは、普通にゲルグリップがついたシャーペンだ。シャーペンが急に必要になって適当にその辺のゲルグリップシャーペンを使ったら今までの30倍くらい楽に書けて、細軸の堅いシャーペンはやはり私の筆圧には合っていなかったことを思い知ったからである。

 私が今より腕が健康で、腱鞘炎のリカバリーが早かった子供の時にしか使えないシャーペンだと考えれば、あれはやはり青春のシャーペンだったのかなあと、なんとなく思った。

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