カミサマのいる島

波照間島に降り立って最初に感じたこと、それはやたら白いという印象。
緑の森もサトウキビ畑も青い海も、なぜだかみんな、何もかもが白っぽく見える。
見ている風景と自分とを隔てる空間に、光の粒子がぎっしり詰まっていて、それらが白く発光している、とでも言わんばかりの。

後になって僕は、その感想があながち間違ってなかったことを知る。

波照間島。ここはカミサマのいる島。
あの森とその森にはカミサマがいて、そこはカミサマの寝室だから入っちゃダメよ。ここは大丈夫。ちゃんと言っといたから。あ、その石、踏んだらあかんよ。それ牛のチム(肝)。ここの集落の人たちを救った牛のチムだから。


僕らを案内してくれる車は、何か見えないものを探しているかのように、時速10kmくらいでのろのろ走る。
何もない変わらない景色の中、突然車は停まり、運転手の岩崎さんは傍らの森へ。おしっこでもするのかな?…あ、入ってっちゃった。…あ、道がある……のかな?

森に分け入り、覆いかぶさるアダンをくぐると、そこは海。
真っ白な砂の上を、少し粒子の大きいベージュの砂が、波に揺られてさらさらと流れていく。


流木の上にどっかと腰をおろして、そのまま5分?10分?それとも1時間? 海を眺めて岩崎さんの時間が過ぎてゆく。
ぼくはとりあえず海に駆け込んでいる。拾った貝殻を口にあて、高く吹き鳴らす。
浜辺には僕らの他に、誰もいない。

波照間島。日本最南端の島。
ここの空気はやたら白い。
島にはいたるところにカミサマがいる。
僕の目には、白い光としか見えないけれど。
島の人たちは、ちゃんと避けて通る。
犬もカラスも、ちゃんとわかってる。

(2005.8.13)

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