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2023年 ベスト音楽

 去年とはまるで違う2023年音楽になりました。
 まずライブ。数は少ないとは言え今年前半もいくつか観ましたが、やはり11月から12月にかけてのベテランブリティッシュ祭が記憶に新しいです。
11/1: Jesus Jones
11/18:Manic Street Preachers
11/18:Suede
11/28:Morrissey
12/13:Napalm Death
 こんなの、ぜんぶ良いに決まってるじゃないですか。濃淡こそあれ、すべて30年以上聴いている人たちです。でもそんな中でも特別良かった、今思い出してもまだ一番良かった、と思えるのが──

2023ベストライブ:Jesus Jones@下北沢シャングリラ

 ライブを観てどう思うかにはいろいろな要素、観点があります。まず箱の良し悪しから始まり、音響、人の入り具合や客席の感じ、観ている位置、そのような周辺環境から、バンドの調子、演奏、出音、その大小、セトリ、などなど。そしてもちろん自分の気持ちの位置もあるでしょう。
 それらのすべてが完璧だったのがジーザス・ジョーンズでした。目の前に現れたマイク・エドワーズのかっこいいこと。もちろん『Liquidizer』から34年分歳を取っているのですが、とにかくひたすらかっこいい。そしてバンドの現役感がものすごく、1曲を除いて90年代の曲だったのに懐メロな感じがまるでありませんでした。とても感動したし、その感動が今もまだ抜けていないくらいです。

 それでももう一つあげておきたいのは、やはりモリッシー。

 2016年の横浜公演がキャンセルになってしまったので、Kill Uncleツアーの1991年以来でした。観ていた位置のせいか音があまりよくなかった気がするのですが、さすがモリッシー、なにせとにかくモリッシー、自分にとってもっとも重要なミュージシャンの一人は今なお圧倒的です。ボーカリストとしては若い頃よりずっと良いと思います。曲ごとに変わっていくバックの映像も美的センスに溢れていてすごく良かった。出てきた時には思わず「ぎゃああああうわあああああ」と叫んでしまったし、歌いまくったしで、終わったら喉がかれていました。大好きな「Sweet and Tender Hooligan」も聴けて、Etc! Etc! も歌えて、満足です。

 続いて音源について。リマスターやリイシュー云々はいろいろ買いましたが、今年買った純粋な新譜はたったの5枚。この数十年で最少の枚数だと思います。
 それぞれ非常に素晴らしいアルバムです。特にブラーは良かった。でも例えば去年のMitski『Laurel Hell』のように、全曲好きと言えるほどのものはなかったです。
 そのMitskiの今年の新譜は例によってこれまでのどれとも違うという、Mitskiらしいものです。非常にアメリカを感じさせ、こんなにオーガニックでカントリーやゴスペルに接近しているにも関わらずレイドバック感がないのは驚きです。そのアコースティックな音に反してとても力強いアルバム。ぜひ聴いてほしいです。

その前提で──

2023ベストアルバム:The Beatles 『1962-1966』『1967-1970』

 「Now and Then」をリリース時にYouTubeで聴いた時は正直まるでピンと来なくて「Free as a Bird」の方が好きだなとか思っていたのですが、これを買って通して聴いて4枚目の最後の最後に収録されている「Now and Then」を聴くともう別物に聴こえました。公式発表されていないデモ音源というものが好きではない(ボーナストラックに入っていても聴き飛ばす)ので、ジョンのオリジナルデモは聴いたことがありませんでした。そこにはあるBパートがビートルズバージョンでは完全にオミットされていると聞いてジョンのデモも聴いてみました。個人的にはビートルズ版の方がすっきりしていて良いと思います。でもジョンの方を知っていた人は違和感を持つでしょうね。
 アルバムの方も大量に曲が追加されて、基本最新リマスター/リミックスだし、2023年のデミックスもたくさん入っています。特に『Magical Mystery Tour』『Yellow Submarine』期の音がえらいことになっています。「Hey Bulldog」でコーラスパートのスネアが表拍の四つ打ちだなんて初めて知りました。赤盤の初期はもともとが悪いのか、そこまでではありません。でもデミックスによって例の「左右分裂ミックス」はすべてなくなっています。
 これを買った時、数日続けてビートルズを聴いていました。そんなのは中学生以来だったかもしれません(あの時期には到底敵いませんが)。そしてこのバンドはやはり世界一ではないか、と思いました。これだけの大量の曲をぜんぶ知っていて、全部名曲で、もちろんここに入っていない名曲もまだまだたくさんあるなんて。ここ数年のリマスター・リミックスアルバムも買って来ましたが、これほど「ビートルズの再発見」を感じたことはありませんでした。
 ビートルズで一番好きな曲は「In My Life」で一番好きなアルバムは『Abbey Road』か『Revolver』なのですが、赤青に関しては青ばかり聴いてしまいます。なので時期としてはやはり青期が好きです。

2023ベストソング:Miyake Haruka「空白」

 三宅遥の4曲入りシングル『空白-EP』が発表されたのは2019年でした。当時はアナログだけでの発売だったので買わなかったのです。
 今年頭にふと思い立って検索してみるとデジタル版があったので買いました。あとで調べると2022年7月から配信されていたようです。今年前半は毎日こればかり聴いていました。そして12月になってまた聴き出しています。
 特に1曲目の「空白」。めちゃくちゃ聴きました。三宅遥の一番やばいところのもっとも先端を行くような、とてつもない名曲です。比類なき歌声や高い技術の演奏は言うまでもありませんが、三宅遥は歌詞もすごい。むしろ歌詞がいちばんすごいのではないかとすら思えます。それらが融合し表出される音楽の、彼岸から歌われているような冷たい感触。それが三宅遥の音楽の特徴の一つでしょう。
 と書くと簡単ですが、この音はそんなに生やさしいものではありません。凍てついた海が溶解し生命を飲み込む、氷の中に閉じ込められた希望が粉々になっていく瞬間の空気、すべてを沈めてしまう破壊的で柔らかな詩情、それらの総攻撃による世界の終わり、その時に三途の川に佇む何者か。そんな感覚とビジュアルが常に付きまとうような音をそう簡単に作り得るでしょうか。
 今年の新曲ではありませんが、今年買って今年もっとも回数を聴きもっとも印象的なこれをベストソングにします。

 三宅さんはいつの間にか音楽活動をストップされているようですが、こういう音源を残していただけて良かったです。そしてこういう人がいま音楽をされていないのはとても惜しいことですし、少し大げさに言えば音楽そのものの損失だと思います。でも三宅さんにまた活動して欲しいなと思うかというと、そういうわけでもない。残された音源と何度か観た素晴らしいライブ演奏、ある意味それで充分だしそれで終わることもあるでしょう。終わりはいつも、あとから分かります。

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