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#4. 社会保険の加入基準と未適用事業所対策

これまでの3回は労働基準法が中心でしたが、今日は社会保険について書きます。

まずは社会保険の加入基準から説明していきたいと思います。
よくご存知という方は、そのまま後段のパートに飛んでください。

社会保険の適用事業所

どんな会社や事業所が社会保険に加入しないといけないのか、確認しておきたいと思います。
社会保険の加入対象(適用事業所といいます)は以下の通りです。

①法人の事業所(事業主のみの場合を含む)
法人であれば、たとえ社長1人であっても社会保険に加入する必要がありますが、知らない経営者が多いようです。
もちろん起業したばかりで役員報酬ゼロという場合は加入しませんが、報酬が発生していれば加入対象となります。

②従業員が常時5人以上いる個人の事業所(農林水産業、サービス業、飲食業などを除く)
これまた誤解の多く、「個人経営だから社会保険に入る必要が無い」と勘違いしている経営者が多い気がします。
サービス業や飲食業はその通りですが、小売業やIT(通信)、不動産業は個人経営であっても従業員が5人以上いれば強制適用です。
また、弁護士事務所や税理士事務所などのいわゆる士業(専門サービス業)の個人事務所も今は加入対象外ですが、法改正により2022年10月1日よりこの対象となります。

※上記以外であっても、従業員の半数以上が同意し、認可を受けることにより適用事業所となることができます。(任意適用事業所

社会保険の加入対象者

次に、適用事業所の中で、どのような働き方をする人が加入対象(被保険者)になるのかを確認しましょう。
従業員と役員に分けて説明します。

【従業員】

①正社員などのフルタイム勤務者
②パートやアルバイトで、2か月以上の雇用見込み、かつ「正社員の4分の3以上」勤務している人
③被保険者が500人以上(※1)の事業所(特定適用事業所)で、以下に当てはまる人
・週の所定労働時間が20時間以上(※2)
・1年以上の雇用見込み
・賃金月額が8.8万円以上
・学生でない(※2)

(※1)500人の要件は、2022年10月に100人以上、2024年10月に50人以上に落ちてくることがすでに法改正で決まっています。
(※2)雇用保険の加入条件と同じなので、≒雇用保険加入者と考えれば良いです。

この中で、②についてもう少し説明すると…これは雇用契約書に書いてある時間ではなく、「実際に」勤務した時間です。
例えば1日8時間、週40時間が所定労働時間の会社でしたら、実際に週30時間以上勤務していたら加入対象となります。

ではどのようなときに非加入を指摘されるのか。
多くの場合、「算定」という年に一度社会保険料を見直すイベントが7月にあるのですが、これがきっかけになります。
届け出の際に添付する「附票」というものに、社会保険に加入していないパートやアルバイトの人数を記入する欄があります。30時間以上なのに加入対象外となっていると、九分九厘「加入させなさい」となります。
また、算定は5~6年に一回「総合調査」というものにあたります。全従業員の賃金台帳・出勤簿などの勤務実績がわかる書類を持って、人事担当者(または社労士)が役所に出向いて簡単な調査を受けるのですが、そこで指摘されることもあります。
また、たまにですが、算定や月変(随時改定)の結果を見て、後から立ち入り調査が入ることもあります。

【役員】

あまり知られてないのですが、役員の場合は「経営に参与しているか否か」で判断されます。
役員は当然「勤務」という概念がありませんので、時間では量れませんから。

これはだいぶ前ですが実際にあった話(多少アレンジ)ですが…
とある地域の地主さんが家族を役員にして法人を設立した際に社会保険の加入のお手伝いをしました。
社長の息子さんはサラリーマンの本業があり5万円の役員報酬でしたが、経営に積極的に参加しているということで社会保険に加入、息子さんの奥様は役員報酬50万円でしたが経営には参加していない実情を踏まえて非加入となりました。
極端な例ですが、実際に本当にあった話です。

ついでに言うと、サラリーマンの息子さんはお勤め先で社会保険に加入していますから、「二以上事業所勤務届」の対応となりました。
※イメージですが…こんな感じです。(A社もB社も手続きは少し面倒です)

二以上

未適用事業所への対策強化

私がいつも情報収集に重宝させていただいている、名南経営コンサルティングが運営する「労務ドットコム」の5月11日の記事です。

※「労務ドットコム」は、社労士として独立を目指している方はもちろん、企業の労務担当者にもとてもオススメのサイトです。
(私は会社の同僚にもいつもメルマガ登録を勧めています)

この記事、少し難しいと思うので、簡単に書くとこんな感じです。

【これまで】
2015年から、源泉徴収票義務者(つまり、従業員を1人以上雇っていて所得税を給与から天引きして税務署に納めている事業所)について、国税庁から情報提供を受け、加入促進を進めて来ました。この頃、年金事務所から突然赤紙のようなお知らせが来て、慌てた経営者は多いのではないでしょうか。(私も個人的によく相談されました)

【今後】
上記の国税庁の情報に加えて、今年度の計画では、雇用保険被保険者情報や法人登記簿情報等も活用するとのことです。
つまり、給与の源泉徴収をしていなくても、法人であれば社会保険の未適用を指導される可能性があるということです。

また、これまで加入指導に従わなかった企業についても、立ち入り調査などより強力な加入指導を進め、2021年度末までの加入を目標に掲げています。
(これから未適用が判明する企業については、2023年度末までの目標)

以前、とある税理士さんから「法人成り」ならぬ「個人成り」が流行っているという話を聞きました。
ほかでもない、社会保険の加入を免れるためですね。(笑)

さいごに

なぜここまで国をあげて社会保険の加入を進めるのか。
大きく2つあるのではと思います。

1.社会保障、とりわけ年金財政の健全化
今後も社会保障制度や年金制度を維持していくためには、何よりお保険料収入が必要です。
未適用の事業所をつぶすことで、財政の健全化を進めたいのだと思います。

2.将来の年金額の充実
日本の年金制度にはいろいろ意見がありますが、社会保険に加入すると従業員本人の将来の年金額は確実に増えます。これは間違いありません。
よくわからず「年金制度は破綻する」ということを吹聴する人がいますが、年金制度の破綻=日本の経済の破綻です。

2019年に、5年に一度の年金財政検証(公的年金制度の健康診断みたいなもの)がありましたが、ネガティブ(経済成長率▲0.5%)に見積もったとしても、現在約60%の所得代替率(※)は、20年後には50%を維持するとされています。
(※)所得代替とは、現役世代の平均収入に比べたモデル年金額のこと。(例えば現役の手取り額が35万円の場合、夫婦のモデル年金額は21万円)

年金支給が無いと生活保護者が溢れ、生活保護費は結局「税金」ですから。
「下流老人」を一人でも減らすため、国としては全員がしっかり年金に加入して、将来自分の年金で生活して欲しいのです。


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