見出し画像

組織風土改革日報№.4_知らない街の夜景みたいやん。

①前回のあらすじ

某電子部品メーカーで、自律分散型組織の企画リーダーを担当する事になった私(キタ/北)。
何となくバイブルになるんじゃないか?という期待を込めて購入した書籍『ティール組織』(フレデリック・ラルー著)を読みながら、目標と現状のギャップの大きさを痛感。さらに自分の意識もありたい姿とは程遠い事に気付いてしまう。
今後の第1歩目。重要だぞ。。。

~登場人物~
キタ(北):私
林さん:上司(課長)
南さん:上司(係長)
山下さん:同僚
黒淵さん:製造課長

②さて、今期の目標を。。。

2021年4月上旬。
異動して間もない、私の最初の仕事は、

今期テーマの設定。

会社はMBO(目標管理制度)のスタイルを取っており、期首のテーマ設定が、半年後の自分の評価と、密接に結びついている。

私は基本的にムーンショット(到底届かない様な、高い目標を掲げ、その7~80%程度の出来栄えを狙う。)だが、今回は、そのお月様が分厚い雲に隠れている為、ルーフショット(実現可能な範囲の出来栄えを着実に狙う)で作成する事にした。

誤解を恐れずに言うと、ルーフショットでのテーマ設定は、私にとって物凄く簡単だった。
出来そうな事を、何となくのストーリーで、いつ頃達成するかを、つらつら~と書いた。

いつも作っている得意料理を、自分の為に作る。
そんな気楽な感覚だった。

1~2h程で、今期の私のtodoリストを作成し終え、一通り眺めてみる。

大項目的には以下の3つに設定。
・自律分散型組織を学び、広める。
 ・対人支援のノウハウ(コーチング)を整理し、伝える。
 ・他部門との連携を含め、風通しのよい組織を作る。

各大項目に、具体的なテーマをぶら下げて、合計20個程度の活動目標が出来上がった。

また、個人的にはキャリアコンサルタントの国家試験合格。という、恐らく自分にとって一番プレッシャーの掛かる目標も、決意の如く書き記した。

(実は、2週間ほど前に、キャリアコンサルタント養成講座を、何とか卒業したところであった。この辺りのエピソードは、別編でその内書いてみたい。)

さぁ、上司に内容確認をば。。。
早速メールする。

南さん
 お疲れ様です。
 今期テーマの件、作成しました。
 添付しますので、ご確認宜しくお願い致します。

暫くすると、返信があった。

北君
 おつかれさま。
 内容OK。
 国家資格の挑戦は、個人的な目標だから欄外に書いて下さい。

おやっ!モヤッ!
私の決意が、欄外だと!?

いやいや、これはショウガナイ。
私がキャリアコンサルタントを名乗る事と、今組織に求められる成果は、違う事なんだ。

そう自分に言い聞かせて、
これから何度も心で呟くであろう、”ショウガナイ”を、少しだけ覚悟した。

③資料づくり with Pretender

作る、造る、創る

同じ発音でも、漢字が変われば、微妙なニュアンスに差が付けれる日本語が好きだ。

もっと言えば、語って伝えるよりも、書いて伝える方が、私は表現の自由さを感じる人間らしい。

3つのツクルをイメージしつつ、せっせとパワーポイントに、私の頭の中を表現していた。

タイトルは ”自律分散型組織とは”。
従業員の皆様へ、この最新の世界観を伝える為の資料をまとめていた。

気分がノってくると、頭の中でいつも音楽が流れる。
今回のナンバーは、『Official髭男dism_Pretender』。名曲だ。染みるぜ。

概ね4章に区分けし、それぞれに肉付けを行う。
・1章:一般的なティール組織の説明
 ・2章:自律分散型組織の効果について
 ・3章:求められるリーダーシップ
 ・4章:自律分散型組織事務局からのお願い

ティール組織からINPUTした、5つの組織モデルや、キーとなる価値観。
それらを、今期の部方針ととらまえ、どういう組織形態を我々は目指せばよいか。リーダーはサーバントであるべき、個人はどうあるべき。
分からない事は事務局に連絡してね♡

こういった情報を、全体で40ページほどで表現してみた。
驚くほど創作意欲が掻き立てられ、当初は70ページに膨れ上がった内容を、泣く泣く削ぎ落しての、自分なりの渾身の40ページだった。

山下さんに作成した資料を確認頂いた。

『凄いですね。。。4日で作ったんですか。』
「はい、いえ、自分も学んだ事を、そのまま書いただけなので。。」
『これが自律分散型組織なんですか?』
「どうやらそうみたいです。電子掲示板で発行して、皆さんに見て貰おうと思います。」
『お願いします。』

体裁を山下さんにアドバイス頂きながら、校正を重ねリリースした。

まだ4月の上旬。早々に今期テーマの一つクリアした。

暫くして、林さんから電話があった。

『北君、資料作成有難う~、むっちゃおもろいやん。』
「見て頂いたんですね!有難う御座います!」
『いやいや~、午後から課長以上の打ち合わせがあるから、そこでこの話してくれへんかなぁ。』
「承知しました。準備しておきます。」
『じゃ会議招集しときますぅ。』
「はい、宜しくお願い致します。」

電話を切り、資料を再度見直した。
さぁ、思いがけず管理職とのセッションだ。
もう一度頭の中のプレイリストから、Pretenderを再生させた。

③知らない街の夜景みたいやん。

定刻5分前となり、招集頂いた会議案内に添付されたアドレスを、クリックしてWebミーティングに繋いだ。
私だけが画面に表示された。
まだ誰も来ていないようだ。

何だか、落ち着かなかった。
これから恐らく、私に向けて質問の嵐が来るのだろう。
やや鬱々とした感覚があった。

定刻が近づくと、徐々に各課の長達が、順に画面に表示された。
一人、また一人。
登場してはカメラをoffにし、マイクをoffにしていく。
定刻になると”顔を隠した10~20名ほどのお偉いさんの群れ”が、画面の中にすっぽり収まった。

全員カメラをoffにしている為、画面は黒く、各自の名前だけが表示されている。

まるで、黒魔術の儀式のように、顔を覆う黒い三角錐の頭巾を被り、怪しげな模様を囲んで、これから誰かを呪いころす。そんなイメージが私の頭の中で描かれていた。
多分、呪いの対象者は私。なんちゃって。

林さんが話し出す。
『皆さんお疲れ様ですぅ。今日は北君に自律分散型組織の概要をINPUTしてもらおうと思いますが、宜しいでしょうか。』
・・・
『はい。では北君宜しく。』

異論がなければOKという、独自のコミュニケーションだ。
以前なら何も感じていなかったが、今はずーーっと違和感しかない。

「はい、ご指名頂きましたので、15分ほどお話します。」
・・・
OKかな?OKだよね!?喋るよ!!?

「自律分散型組織とは、ティール組織でいうと、、、」
「ティール組織には5つのモデルと3つのキーがあって、、」
「今後は統率力よりも、サーバントリーダーシップで、、」

ただただ画面上切り替わる、北作の渾身のパワポ資料、そして私のクリスタルボイスが、電気信号化され、イヤホンを通じて皆さんの耳に響き渡る15分が過ぎた。

「・・・と、こういう所を目指して、一緒に考えていきたいと思います。
何か、アドバイスや気付きがありましたら、お願いします。」

少しの間を持って、マイクのミュートが外れた方が居た。

製造課長の黒淵さんだった。

『これが自律分散型組織という事なのは分かったけど、どうやってやるん?』
「どうやってやるとは?」
『いや、従業員って、自律したいんか?』

・・・あれれ?

「したいんじゃないんですか??」
ちょっと待て、これは上位管理職で決めた部方針にも書かれている事では?なんだろうその質問。。。

意図を汲み取ろうと必死になっている所に、黒淵さんのトドメの一撃!

『いや、ムリやと思う。』

どひゃーーーー!!

久しぶりに思考停止。

『だって自律って苦しいものでしょ?自分で何でも考えて行動する事って、誰でも出来る訳じゃないと思う。』

堰を切るが如く、他の製造課長が喋りだす。

『もう少しかみ砕いてくれないと。』
『この資料は誰に向けたもの?作業者は分からないよ。』
『ゴールから書かないと伝わらないよ。』
『5ページくらいにまとめないと、誰もきいてくれないよ。』

ちょ、ちょっと待て、後半全然関係ない指摘事項に溢れている気がするぞ。

3分ほど彼らの話を聴いて、漸く私は小悟した。

私が作った渾身の40ページ分の情報は、我々製造部への意味付けがないのだ。いわば、ただの自律分散型組織の教科書になっていたのだ。

リスナーの彼らからすると、その何だかよく分からない情報を、何だか素晴らしいモノであるかのように、15分間聞かされ続けた訳だ。

Pretenderの『飛行機の窓から見下ろした、知らない街の夜景みたいだ』という歌詞を思い出した。そんな気分だったに違いない。

あかんやん。

林さんがキリの良い所で、クローズしてくれた。
『北君有難う。大変勉強になりました。これから一緒に具体的に考えていきましょう。皆さんもフォロー宜しくお願いしますぅ。』

想像以上に早く訪れたデビュー戦は、見事に敗北感を味わう事になった。

疲れた。
若干左目が痙攣していた。

ここで、私は組織論の中核を学んだ。
組織論は、自社との統合によって、意味を持つ。という事。
いかに自分事として、一人一人組織開発と向き合うか。という事。

悔しい想いもあったが、この気付きは宝物になる。
そういうポジティブな感情も、私の中で起こっていた。

日報⑤へ続く

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?