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「休業手当を請求する、その前にやるべきことがあります」

社会保険労務士の山地です。

先日、大手航空会社が社員の基本給の引き下げや冬の賞与は支給しないなどを、労働組合に申し入れたというショッキングなニュースが流れました。

新型コロナウイルス感染拡大の影響による解雇・雇止めは6万人を超えたと報じられています。

事業経営においてはいろいろな経費がかかりますが、一番大きなウェイトを占めているのは人件費です。

この不況下にあって企業規模の大小を問わず、雇止めのほか新規採用の抑制、希望退職者の募集など、なんらかの形で雇用調整をしている企業は多いでしょう。解雇を回避し雇用を維持するために休業する会社もあります。

緊急事態宣言が発令された4月、5月と比べると、現在は休業する会社もだいぶ減ってきました。それでも雇用を維持するために休業手当を支払う事業主に対して手当の一部を助成する「雇用調整助成金」の特例措置は12月31日まで延長されています。

この休業手当については、事業主が雇用調整助成金を支給申請すべき場合であっても支払ってもらえないケースが多々ありました。そのような労働者(中小企業に勤務する人)を救済する措置として、労働者自らが申請することにより「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」(以下、休業支援金と略)を受給できるようになりました。


このような救済措置があることは休業手当を支払ってもらえない労働者にとっては大変ありがたい制度です。休業手当を支払ってほしいと会社に掛け合ってみたけれど、払ってもらえなかったのでこの制度を利用するというのは当然の流れです。

しかし、休業支援金を申請する前に、休業手当を支払ってほしいと会社に言う前に、できることはないでしょうか?

労働者の皆さんにぜひやっていただきたいことがあります。

それは、少しでも休業する時間や日数を減らせるように「自分(たち)に今、できることを提案する」ことです。


今年の春、労働相談の仕事をしたときのことです。そのときはまだ休業支援給付金の制度はありませんでした。

スポーツクラブに勤めている非正規雇用の方からクラブの営業自粛に伴い、休業を余儀なくされているが、休業手当を支払ってもらえないということでした。よくある相談です。

クラブにはウォーキングやランニングのほか自転車をこぐなど、筋トレをするための様々なマシンがあり、相談者はクラブの会員にマシンの使用方法を説明したりするなど主に接客の仕事をしていました。

会社としてはクラブを休業すれば会員が来ないので、接客の必要がなくなるためこの方を休業させたものと思われます。意外と誤解されていることがあるのですが、営業自粛を要請されることはあっても、必ずしも従業員を休業させるような要請はされていないはずです。

普段の日常業務(ここでは接客)が忙しければ忙しいほど、本当はやらなければいけない仕事であっても優先順位が下がってしまい、できずに放置されているものがなにかあるに違いありません。

・普段行き届いていない部分の施設内の掃除
・マシンを安全に利用できるか、不具合がないかの点検
・会員に電話をかけて近況を聴き取る
・マシンがなくても自宅でもできる簡単なトレーニングの提案
・会員の目的に応じたマシン利用の個別メニューの検討
・感染防止のための施設内の消毒
・営業再開に向けてキャンペーンを企画する etc…

その気になれば仕事はきっとあるはずです。

このような接客業ではひと月以上も休業してしまうと、その間に客足がすっかり遠のいてしまい、営業を再開しても元どおりに戻ってきてもらえるかは不透明です。客離れを防止し売り上げの減少を最小限に食い止めるためには、休業中であってもなんらかの対策をすることは必要でしょう。

ここで大事なことは単に自分(たち)の要求を伝えるのではなく、働く意思があること、自分(たち)にもできることがあることを伝えることです。

事業主は事業経営全般において責任を負っています。解雇はもちろんのこと、休業も可能な限り回避するよう最大限の努力をしなければいけません。

事業主都合で休業させられるのだから、休業手当は支払ってもらうのが当然と言えばそれまでです。

しかし、事業主も今まで経験したことのないこの非常事態において企業存続の危機に瀕し、当面の資金繰りの確保などで手一杯になってしまっていたりすれば、それ以外のことをきちんと考える余裕がなくなってしまっているかもしれません。

休業手当を請求するその前に、自分(たち)にできることを提案してできるだけ休業を回避し、少しでも働いて賃金を受け取れるように、まずは交渉してみましょう。

そもそもですが、働く意思と能力のない人を休業させて事業主が雇用調整助成金を申請しても、支給されません。

それでだめなら、法に則り休業手当を請求しましょう。

休業支援給付金を請求するのは最後の手段です。


まさかの時こそ互いの真価を問われるのではないかと思います。労働者と使用者が相互に理解を示し、ともに協力してこの困難な事態を乗り越えてほしいと思います。


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