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「長期療養の結果、復職できずに退職したら・・その後の生活はどうしますか?」

社会保険労務士の山地です。

人は長い人生を歩むなかで、ときに重い病気にかかったり大けがを負ったりして回復に時間がかかることがあります。これは身体の病気に限らず精神疾患も同じです。

ときには回復することなく、「障害」という形となって一生付き合っていかなくてはいけない場合さえあります。

長期療養のため休職したけれど休職期間中に回復せず、結果退職を余儀なくされるというケースは珍しくありません。

そんなとき、これからの生活を送るためにどうやって収入を得たらよいのでしょうか。

生活保障の手段として実際に受給できるかどうか、その可能性をぜひ探ってみていただきたいのが「障害年金」です。

年金と聞いて多くの方が想像されるのは「老齢年金」です。「障害年金」というものがあるということをご存知ない方は非常に多いのです。おそらく社会保険のなかで最も知られていないのが障害年金だと思います。(^_^;)


障害年金を受給するためには3つの要件をクリアする必要があります。

1.初診日要件
初診日とは障害の原因となる病気やケガで初めて医師や歯科医師の診察を受けた日のことです。

・初診日に国民年金や厚生年金に加入していること
または
・初診日に60歳以上65歳未満で国内に住んでいて、国民年金に加入していた人


2.障害認定日要件
初診日から1年6か月経過した日
または
1年6か月経過する前に症状が固定した場合はその日に

障害の程度が障害等級に該当すること
国民年金は1級または2級
厚生年金は1級から3級です。

障害等級
1級 ひと言で言うなら寝たきり、またはそれに近い状態
2級 働いて収入を得ることが困難な状態。入院または在宅で活動範囲が屋内に限られるような人
3級 働くことも可能だが、制限がある。フルタイムはダメでも短時間なら可とか、肉体労働はダメでも事務なら可など、仕事の内容や個人により差がある。健常者と同じようには働けない。

1年6か月と聞くと、長い・・と感じる方も多いでしょう。業務以外の理由で療養している場合は働けなくなった日から3日間経過し、4日目から傷病手当金を受給するのが一般的です。受給開始から1年6か月間を限度に支給される点を考慮すれば、理にかなっていますね。


また、障害認定日が1年6か月経過する前に認められる例としては

・人工透析を始めてから3か月経過した日
・心臓ペースメーカーを装着した場合は手術日など、

その他にもいくつかあります。


3.保険料納付要件
原則
初診日の前日において、初診日の月の前々月までの加入期間のうち、
保険料を納めた期間と保険料が免除になった期間を合わせて3分の2以上あること

特例
初診日が令和8年4月1日より前にある場合、次の2点を満たせば可
1.初診日に65歳未満である
2.初診日の前日において、初診日の月の前々月までの1年間に滞納がないこと

原則か特例のどちらかで保険料の納付が確認できれば可です。


障害年金受給の可能性を検討するにあたって一番大事なことは初診日を明らかにすることです。

初診日がわからないと、
・どの制度に加入している(加入していた)のか?
・いつの時点での診断書を作成してもらえばよいのか?
・保険料の納付ができているかどうかの確認
ができないからです。


以前病院の院内相談会に来られた方のお話です。
50代くらいと思しきその女性は高校教師でした。ご自身のことではなく、お兄さんが精神疾患のため仕事に就けず、もう30年くらいずっとご両親の収入で生活しています。お兄さんは過去に就職されたこともあるのですが、職場でのいじめに耐えられずに退職し、以来そのままということでした。

この女性は院内相談会に来られるまでにいろいろなところに相談に行かれていたのですが、障害年金のことを知ったのはつい1年ほど前のことだったと言います。障害年金のことを相談しても、初診日がわからないのでは無理だと言われ続けてきたのでした。

目に涙を浮かべながらハンカチを握りしめ、高校教師であるにも関わらず長年障害年金のことを知らなかったご自身を責めていらっしゃいました。

知らないことが不利益につながるのです。


医療機関で初診日を証明してもらおうにも30年も前では、すでにカルテが廃棄されていたり、廃院になっていたりすることも珍しくなく容易ではありません。

初診日の取り扱いについて、平成27年10月に改正がありました。

初診日について複数の第三者証明(三親等以内の親族以外の人)があり、ほかにも参考資料が提出された場合、本人が申し立てた日が初診日と認められる可能性が出てきました。

参考資料の例としては、診察券、投薬袋、身体障害者手帳の写し、交通事故証明書の写しなどです。

その当時、受診していたことを証明できる人を探し出し、資料となりうるもの、初診の日付がわかる手かがりとなるものをなんでもいいから探し出していただきたいのです。


私たちは機械でもなければロボットでもありません。感情を持った生身の人間です。命に明日の保証はありません。障害や死とは常に背中合わせで生きています。

だからこそ、今・この瞬間を大切に生きなければなりません。

どんな窮地に立たされても決して人生を諦めない。そのためには正しい知識が必要です。

11月は日本年金機構が定めた「ねんきん月間」です。イザというときのために年金についての理解を深めていただきたいと思います。


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