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「アルコールチェック義務化」を社内にスムーズに導入するために考えたいこと

社会保険労務士の大石惠一です。
2022年4月、改正道路交通法が施行されました。具体的には、今まで運転前後のアルコールチェックの対象が運送・輸送事業者の運行管理者から、自社製品などを搬送のため自動車を使用する安全運転管理者まで対象が拡大されています。
今回の改正について、職場での取り組み方の方向性をみていきましょう。

法改正に戸惑う声

今回の法改正についてtwitterでは
「めんどくさい」「意味ない」「飲酒しないから煩わしい」
などと法改正に対して、後ろ向きなツイートが散見されました。
では初めになぜ、今こんな「めんどくさくて、意味がなさそうな」法改正がされたかを確認していきます。

アルコールチェック義務化となった背景

警察庁「道路交通法施行規則の一部を改正する内閣府令等の施行に伴う安全運転管理者業務の拡充について」(通達)より


法改正以前、安全運転管理者の業務は、飲酒等の理由により正常な運転をすることができるかどうかの確認義務にとどまり、アルコール検知器での確認や、運転後の酒気帯び確認や確認内容を記録化するなど、具体的な酒気帯び確認の方法等は定められていませんでした。
しかし、 2021年6月28日に千葉県八街市で発生した*交通死亡事故を受け、同年8月4日に決定された「通学路等における交通安全の確保及び飲酒運転の根絶に係る緊急対策」において「安全運転管理者等の未選任事業所の一掃を図るとともに、安全運転管理者業務の内容の充実を図る」ために、道路交通法施行規則の一部を改正し、安全運転管理者の行うべき業務として、アルコール検知器を用いた酒器帯びの有無の確認等を新たに設けられることになりました。
*交通死亡事故はいわゆる「八街事故」とよばれ、下校中の小学生が飲酒運転のトラックにはねられ5人が死傷した事故のことです。

アルコールチェック義務化の内容とは

アルコールチェック義務化の対象事業所

警察庁「アルコールチェック義務化」リーフレットより

下記のいずれかにあてはまる事業所【安全運転管理者の選定が必須】
〇乗車定員が11名以上の自動車を1台以上保有する事業所
〇乗車定員に限らず5台以上を使用する事業所

アルコールチェック義務化の施行内容

警察庁「アルコールチェック義務化」リーフレット

「アルコールチェックの義務化」が安全運転管理者の業務として、施行開始期が2022年4月と10月と時期を段階を踏んで新たに定められました。

【延期決定】アルコール検知器使用義務


警察庁「安全運転管理者制度に関する留意事項について(通達)」より

10月1日施行目前の9月9日、アルコール検知器の使用義務化が「当分の間」見送られることになりました。
理由としては、事業所において、必要となるアルコール検知器の数を入手困難であると認められたことにあります。とはいえ、以下のとおり「当面の間」の措置になるため今後アルコール検知器を使ったチェック義務に備える必要性に変わりはありません。


警察庁「安全運転管理者制度に関する留意事項について(通達)」より

ここで、法改正施行後の4月25日のドコマップジャパンが社用車を5台以上所有する企業の経営者・総務107名に実施した「アルコールチェック義務化に関する意識調査」(インターネット調査)の結果をみていきます。

経営者の半数以上がアルコールチェックに悩み(ドコマップジャパン意識調査)

ドコマップジャパン「アルコールチェック義務化に関する意識調査」より

半数以上が、「アルコールチェック」に悩みあり

「Q.「アルコールチェック」を行う中で、悩みはありますか?」に対して、「かなりある」が25.3%、「ややある」が25.2%

具体的な悩み(複数回答のうち一部抜粋)

毎回のアルコールチェックに時間がかかる:64.8%
・アルコール測定器が手に入らない:40.7%
事業所ごとの実施状況を管理するのが大変:38.9%
直行直帰、早朝深夜のアルコールチェックが大変:37.0%
・アルコール測定器が高価:35.2%
アルコールチェックの記録を保管しておくのが大変(1年分):33.3%
・虚偽報告が出ないか不安:29.6%
安全運転管理者の業務・管理が大変:27.8%
・アルコール測定器の精度が不安:24.1%
アルコールチェックに関するマニュアルがない:18.5%

アルコールチェック義務化への取り組み(一部抜粋)

・社内への周知徹底:57.9%
・簡易なアルコール測定器の購入:53.3%
・記録・管理システムの導入:33.6%
・アルコールチェッカーに関するクラウドサービスの導入:23.4%
・安全運転管理者等法定講習の受講:22.4%
・セミナーへの参加:10.3%

アンケート結果から見えること

アンケート結果の具体的な悩みのうち、太字の内容は運用方法に関する悩みとして大別できます。これに関する割合が多いことについては、施行から1か月も経たない日が浅いタイミングでのアンケートだったことも一因し、慣れていないというところから悩みとして噴出しているものとみえます。とはいえ、社内での運用方法をしっかり構築しないまま見切り発車で運用開始してしまっているのかと思われるような回答もあります。

社内でのスムーズな運用に向けて

今回の法改正は、アルコールチェッカー不足であったり、クラウドサービスの検討をされているところ段階だったりと現場は混乱していることが感じられます。そのため今必要なことは、現状の問題を洗い出し、スムーズに運用できるようにするために、安全運転管理者と運転者との双方の意見を出し合う場を設けることをおすすめします。それを社内ルールとして整備することが今後法令遵守していくうえで大事な工程です。なぜわざわざ規程に盛り込む必要性があるかというと、今は法改正直後ということで「アルコールチェック義務化」が叫ばれていますが「法改正を知らなかった」という声もアンケート結果に反映されていました。ということは、今後この法律を知らずにいて「これめんどくさい」っという理由から「手続きの簡略化や省略」をしようという機運が高まりかねません。この少しの手間を惜しんだ結果が法令違反になることは避けたいですよね。それらを防ぐためにも「スムーズな運用のための仕組みの構築」と「車両管理規程の整備」が大事なステップになります。

ここから宣伝のようになってしまいますが、「車両管理規程」のような「就業規則」は労働法の専門家である「社会保険労務士」にご相談ください。厚生労働省からは「モデル就業規則」なるものも出ていますが、各社に沿ったものを作成するのであればプロに一任することが後々トラブルの基にならない予防労務に繋がります。
最後に今回の法改正の趣旨は、「飲酒運転の根絶」に向けての取組です。スムーズな手続きになるように社内ルール化することと、この趣旨を肝に銘じていれば、当然いつもやることリストの一つとして認識されることでしょう。

#就業規則 #人事労務 #社内ルール