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水葬記録

コロナ禍でずっと延期になっていた水葬を執り行うため、マウイに降り立ちました。それは、あまりに早く儚い人となってしまった美しい人の遺言でした。故人に所縁のある人、親戚や友人など、たった十数人での見送りでしたが、形だけの豪華な式典や、高価な墓石を建てるより、彼女の早世を心から悼む人達で、彼女の愛した地の、その軌跡を辿る旅をして、その思い出を共有することは、とても有意義な時間で、まるで、もうこの世界にはいない、かの美しい人と再び時間を共有しているようなひととき。


コンシェルジュが渡してくれたレストランリストは、黒塗りが多数

マウイはあの大規模火災でラハイナを失い、実際訪れてみると、物理的に通行止めになっているラハイナだけではなく、数多くのレストラン(他多くの店)が「Not Open」や「Closed」となり、全体的にかなり制限されていて、レストランを予約できたのはマウイ滞在中1度だけ。マウイは本当に大きな傷を負っています。なので、故人の歩いたラハイナの街を行くことはかないませんでしたが、ヴィラのキッチンで肉を焼いてワインを傾けるアットホームなディナーは、何度か顔を合わせる機会があっても、そう話したことが無かった、彼女に所縁のある人達との距離を縮ませるには十分でした。


実はこの感じは、かつての社員旅行が思い起こされることで、私には違う懐かしさが込み上げていたのです。今では是非の分かれる社員旅行ですが、10年以上も前、私の居た会社は毎年海外旅行の社員旅行を開催していて、ハワイは一番多かった行先でした。思い返すと、あれをはやっぱり楽しかった思い出となっていて、すごく重要な機会だったように思います。社内で顔は合わせたことあるけどあまり話したことない人も含めた人たちとの触れ合いは、インフォーマルコミュニケーションの塊というか、レンタカー走らせてラニカイビーチで泳いだこと、ノースショアの有名なガーリックシュリンプ店に行って食べたこと、ワイケレのアウトレットで買い物したこと、ハワイの出雲大社に参拝したことなど、交わした会話なんかもやっぱり鮮明に覚えていて、社員の連帯感の醸成には大きかった気がします。今回の水葬旅行の食事の席で「明日はロビーに〇時集合」なんて相談をするのは、まるであの頃のような感覚があって、きっとこの記憶は鮮明に刻まれるんだろうな、とそう思えたんです。ほとんど話したことなかったはずの皆で登ったハレアカラの山頂でみた、ミルキーウェイの見える満点の星空は、きっと鮮烈な記憶となる。

ハレアカラから見える星は絶景


心優しかったあなたは、遺す人達に心を砕きながらも、早々に天に呼ばれてしまいました。ですが、姿を消してなお、あなたを思い集う人達皆にこうして、今も影響を与え続けていることに、あなたの尊さを感じずにいられないのです。


形見もらっていた新品のサンダル


私は、あなたが愛した地をあなたの形見分けにもらった靴で歩き、あなたが好んで滞在していたヴィラに滞在してその空気を感じ、あなたが愛した人たちと共に過ごし、その人たちとであなた海に還っていく様を見届けました。あなたは、この様子をも想像していたのでしょうか?あなたの遺言の真意はどこにあったのか、私たちは知る由もないけど、あなたはこの海の青さのように、深い人だったんでしょう。あなたの愛した人たちは、あなたへの気持ちで、つながったのです。


あなたが見せてくれたであろう、このマウイの景色を、私はきっと一生忘れない。あなたは本当に最後の最後まで美しい人でした。


R.I.P precious person


Latitude: 20° 39.3241’ North
Longitude: 156° 27.6268’ West


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