マガジンのカバー画像

開運酒場

13
2019年4月に全国の縁起のいい酒場とパワースポットを巡る酒旅エッセイ「開運酒場」(自由国民社・購入は→https://amzn.to/2Os4m5J)を上梓しました。ぜひ第二弾…
運営しているクリエイター

記事一覧

【開運酒場】地元の信者が足繁く通う小さなお稲荷さんのような酒場〜千川・洒落亭〜

良い酒場は神社仏閣と同じ──これはかねてからの自説である。 かつて神社仏閣は地域住民の交流の場であり、俗世を忘れて束の間息抜きができる場所であったと思う。落語の世界では、吉原に遊びに行くことを「ちょっと浅草寺へお参りに……」と言ったりするが、それは単に浅草寺の裏に吉原があったからではなく、”お参りに行く”という聖なる行為と、”女を買う”という不純なる行為は表裏一体で、そうした清濁を併せ呑むのが人間だということを表現しているのだと思う。実際、江戸の有名な神社仏閣のそばには女遊

同じ横丁に2軒あるのは、もしやあの●●戦略というやつですか?〜湯島・岩手屋〜

誰が呼んだか「おばけ横丁」。春日通りの南側に並行する裏路地の飲み屋街だ。 住所は文京区湯島3丁目。かつて芸者の置屋が数多くあり、スッピンで来たのが化粧で化けて出て行ったからこの名がついたそう。 そんなおばけならぜひとも会いたいと、心ときめかせJRの上野御徒町駅から向かった。 春日通りを天神下へ。途中のドン・キホーテ手前の路地をちょいと左へ入る。と、昭和レトロな飲み屋街の景色が広がる。 木の格子戸やのれんがかかる居酒屋だけでなく、怪しげなスナックが集まる雑居ビルがあるの

【開運酒場】古代人の墓参りのお清めに一献〜分倍河原・味楽街〜

 JR南武線と京王線が逆卍に交差する、その中心地点に「分倍河原」駅はある。近くには東京競馬場。だが、そこまで歩くには遠すぎて、ついぞ降りたことは無かった。しかし、先日たまたま仕事で初下車。駅から徒歩5分ほどのところにある「古墳」を取材しに行ったのだ。  分倍河原──古くは「分倍(陪)」や「分配」の字があてられ、「ぶんばい」と呼ばれていたこともあるそうだ。近世以降は「分梅(ぶばい)」が用いられた。現在では、JR南武線・京王線の駅名は「分倍河原」、町名は「分梅町」が使われている

【開運酒場】鬼子母神のお膝元で、距離感の絶妙なBarに遭遇〜雑司が谷・Tsujiya〜

その駅に降りようと思ったのはただの気まぐれだった。 雑司が谷。 通勤で副都心線を使う自分にとってはただの急行通過駅。 だけどその夜はなぜか、そこで一杯飲んで帰りたいと思ったのだ。 地上に出るとそこは都電荒川線。 踏切を渡るとすぐに鬼子母神の参道があった。 古い石畳に大きなケヤキの木。 祭事が近いのか家々の玄関に灯篭が灯る。 参道の突き当たりでふと見つけた不思議な店。 いや、最初は民家か事務所だと思った。 だって屋根に「辻会計」と看板が。 しかし窓から中

【開運酒場】なにゆえ飛騨なのに東海道?怪しすぎる飲み屋街で開運札を奉納〜岐阜県・高山市〜

いまや、日本中のどこにでもいる、インバウンド。 外国人観光客を表すこの言葉、いつ誰が使い始めたのか知らないが、何となく語呂がいいからか、外国人観光客が落とす金がないとやって行けない後ろめたさがカタカナ言葉で薄まるからか、猫も杓子も「インバウンド」の多用で、もはやうんざりを通り越して、何か実態のない空想の生き物のことのようで、なんだかおかしい。 「インバウンドあらわる!」 「インバウンド、東京を席巻!」 おーい、地球防衛軍の出番だよ〜。 え、あまりに多すぎて人が足りない?

【開運酒場】街と酒場は訪ねてみないとわからない〜自由が丘〜

今回訪ねたのは東京目黒区の自由が丘。 え、自由が丘に酒場なんてあるの? と思ったアナタ。たしかにオシャレなイメージのある街だ。 オヤジ好みの飲み屋などなさそうだが、これが結構あるんです。 例えば、伊丹十三や山口瞳も通った名店「金田」、その隣には激シブのウナギ酒場「ほさかや」、オシャレなマリクレール通りには怪しい「よりみち横丁」なんてのも、 ですが今回はそれらではない。 その前に、お参りだ。 やはり神社仏閣などなさそうだが、神社とお寺のない街などありえない。 あ

【開運酒場】奇跡の400㍍で酔う〜秋津駅・新秋津駅周辺〜

〈僕の前に道はない、僕の後ろに道は出来る〉 そう言ったのは詩人の高村光太郎だったっけか。 ふとそんなことを思い出したのは、先日、秋津で飲んだからだ。 西武池袋線・秋津駅と、そこから400㍍ほど離れたJR武蔵野線・新秋津駅。この両駅を乗り換える客は半端なく多い。夕方など、まるで人の洪水。民族大移動というやつだ。 これだけ通勤客が多いと当然、飲食店なども栄える。 仕事帰りだ、一杯飲っていきたい。でも、そう長居は出来ないから椅子は邪魔。で、立ち飲み屋が増える。立ち飲みだか

【開運酒場】見えないバリア、あるいは結界〜練馬・上海家庭料理 蛍〜

酒場は会員制でもないかぎり、基本的には「来るもの拒まず」の存在である。 後になにかをやらかして“出入り禁止”ということはあるにせよ、初めての場合なら、よほど臭うほど不潔であるとか、明らかに泥酔しているとかでないかぎり、ナンピトタリトモ、その店に入る権利がある。 店側も基本的には、より多くの客に入って来てもらわなければ商売にならない。 にもかかわらず、目に見えないバリアに覆われている酒場がある。 例えば立ち飲み屋台。 店と通路を仕切る扉は無く、ほん

【開運酒場】酒とテーブルと椅子があればいい〜立石・倉井ストアー〜

歳をとるとだんだん大げさなことがいやになってくる。 酒場にしてもそうだ。 凝った内装や過剰なサービスは邪魔。 ただそこに酒があり、その酒を置くテーブルがあるだけ(場合によってはなくてもいい)といった、そんな酒場が近ごろは大好きだ。 その一つが、ここ。 観光化している立石を避け、近ごろは隣の青砥を訪ねることが多いのだが、その青砥のとある飲み屋のマスターに「俺が立石で行くのはココ」と教えられた店だ。 立石駅北口を出て、葛飾警察署方面へ歩くこと10分。 住宅街にポツン

【開運酒場】ひばり愛が深すぎる!〜いわき市・食事処おかめ〜

 福島県いわき市にある「JRA競走馬リハビリテーションセンター」は、現役競走馬に温泉療法を行うため日本で初めて1963年に設立されたリハビリ施設。いわき市商工会議所のさそいを受けて取材した。 普段、競馬はやらないが、プール調教のあと、天然温泉(日本三古泉の一つ「いわき湯本温泉」)に気持ち良さそうにつかるお馬さんを見て、辛抱たまらず温泉に入りたくなった。 きけば、すぐとなりの「喜楽苑」という宿で同じ源泉に入れるという。さっそく、自慢の露天風呂へ。 大自然に包まれながら、ち

【開運酒場】知りもせず、色々飲み散らかしてきたこれまでの自分にゴメン〜新宿三丁目・養生餐よきこときく〜

取材の後、もはや暑さでこれ以上仕事をする気もなく、新宿三丁目をさまよっていた時、ふと見かけた立ち飲み屋。 ふだん、こういう新手の日本酒バル的な店は、カフェ店員みたいな若い店主のにわか日本酒ウンチクがムカつくのでなるべく敬遠しているが、なぜかこの日は惹きつけられるものがあり、入ってしまった。 暑すぎてこれ以上歩きたくなかったせいもあるだろう。 こちらは、奈良の美吉野醸造という蔵の酒のみを出す店。 蔵のアンテナショップではなく、目の前のビルで酵素風呂の店を営むオーナーが、

【開運酒場】クリーミー煮込みと警視庁ボトル〜練馬「呑処ぐっさん」〜

練馬駅近くで仕事終了。 帰る前に一杯やってきますか……と、界隈で一番古いという「金ちゃん」に向かった。 が、この日はすでに店じまい。 どうしよう。 今宵は雨。 いつもの居酒屋エクスプローリングもきつい……。 と、金ちゃんの近くで見つけたのがこちらのお店。 「呑処ぐっさん」 店構えは新しいが、入り口扉から店内を覗いてみると中高年客多し。 たぶん歴史は古いけど最近リニューアルしたパターンだなと踏んで入ったらその通りで、創業26年、5年前にテナントビルの立て直しで

【開運酒場】スナックのママは同い年〜東武練馬「ブラックピア」〜

年とったなと思うことは日々ある。 先日も、東武練馬のスナックで、そう思った。 東武東上線・東武練馬駅の南口を出て、旧川越街道を歩いて上板橋方向に歩くこと5分。 道沿いにレトロでディープな商店街を見つけた。 「北町アーケードショッピングセンター」。 ショッピングといっても買い物ができそうなのはペット屋くらいで(しかも金魚と小鳥)、他はスナックや居酒屋ばかり。 なんとなく、近隣住民から見向きみされず、朽ちはてつつある神社仏閣の侘しさに似ている。 つい引き寄せられ、足