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後半の彼らは眼科に行ってほしいなって

小さな開業医が経営する皮膚科で受付をしている私。
患者さんはそんなに多くない。
日に、5・6人と言ったところ。
ほとんどが後期高齢者。
病院はお年寄りのサロンだから、みんな暇になるとここにやって来る。

安永さんは、87歳。
月に1回、ハンドクリームをもらいに来る。

富田さんは、73歳。
月に3回、ハンドクリームとヴァセリンをもらいに来る。
ヴァセリンは食パンに塗って食べる。
あの肌艶はやっぱりヴァセリンから来てるのか、納得。
美人は皆こぞって使うヴァセリン。私も思わず買っちゃった、食パン6枚切。

吉岡さんは、まだまだ若いぞ16歳。
部活で膝を痛めたらしい。外科に行け。
また先生にシッカロールを処方してもらいに来たのか、
外科に行け、湿布もらってこい。

栗山さんは、83歳。
月に2回、リップクリームをもらいに来る。
彼女の唇はいつもテカテカしている。いや、ギラギラ光っている。
戦争で亡くした旦那さんの写真をいつも大事そうに胸に抱えているが、
その写真にたった一人写った男性(?)の顔のあたりは何かべとべとしたもので汚れている。もしかして、、ヴァセリン?

他にも、ゆかいな仲間たちはいる。
ものをもらいに来る浅井さん、いつも目の上が腫れてる。どちらかと言うと眼科に行ってほしい。
鮫肌の鈴井さん、口の周りにいつも赤いケチャップをつけてる。ついでに言うと歯が全部八重歯なんだけど、その口の端から垂れてるの、ほんとにケチャップ?
目が悪いせいでいつも隣の内科と間違えてうちにやって来る細田さん(27歳)、あなたも眼科に行け。

私はそんな彼らを横目に見ながら、
たまに爪を見る。いや、ほとんど爪を見ている。
彼らなんか見ちゃいない。
だから鈴井さんが実際のところ鮫肌かどうかなんて知らない。

私は気にしている、自分の爪のことを。
最近また目が増えてきた。
爪に生えた目を見つめる。これで4個目。
あ、目が合った。こっちみんなよ。


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