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SQUA的連載コラム

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沖縄で暮らすひとびとの、日々のものがたりと、思うこと。
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2020年10月の記事一覧

tram po line , 009

Kunigami , Okinawa 2020 【大城 亘 プロフィール】 写真家。沖縄県糸満市出身。東京代官山スタジオ勤務後、写真家大森克己氏に師事。2006年独立。2011年より故郷沖縄に拠点を移し、様々な媒体で活動中。

vol.005 葉を編む手、世を照らして

この島が「沖縄」になる、はるか昔の物語。小さく名もなき島は、浮き草のごとく海を漂流していた。そこに降りたったアマミキヨという神がアダンを植え、漂う島を海底に根付かせ、琉球国は生まれたという。 そんな神話、「琉球神道記」にも登場する「アダン(阿檀)」は、沖縄の風景に欠かせない植物である。トゲのある葉とパイナップルのような果実、ガジュマルのように太く強い根が特徴だ。 沖縄の人は古くから、アダンを生活に取り入れてきた。可食部が少なく食用には向かないものの、その葉や幹を利用して、

vol.011 ナナシカフェ

娘を連れて久しぶりに西表島に一泊してきた。大原港でレンタカーを借りてその日宿泊する宿に挨拶をしてから西部地区、白浜にある『ナナシカフェ』へと向かった。友人がお店の看板を作ったことで知ったそのカフェは、海と山を同時に望むことのできる素晴らしいロケーションにあり、アジア料理や飲み物を提供している。オーナーの江袋由賀(えたい ゆか)さんは、18年前に北海道から西表島へ移り住み、西表島で出会った旦那さんは、パイナップルやマンゴーを育て販売する『アナナス農園』を営んでいる。『ナナシカフ

vol.004 『パンが焼けない』

元々独立心が強いわけでもなく、カフェがやりたいわけでもなかった。 ましてやパン屋なんて、頭の片隅にもなかった。 何より無類のごはん党である。最後の晩餐は、”旅館の朝食”と決めている。でも昔から、パン屋の空間と佇まいが大好きだった。 特別パン好きでもなかったので、何も知らないが故の憧れともでも言うのだろうか。 その憧れが無謀にもベーカリーカフェをオープンさせることになるのだが、無論、パンの焼けないオーナーだった。 敏腕ベイカーがいたから、そんな必要に迫られることがなか

vol.010 ミツロウラップ

海に囲まれた珊瑚礁の島に暮らしていると、ニュースや雑誌の記事などで取り上げられている海ゴミの問題が現実的に目の前に広がっていて、「どうにかしなくては」と海岸清掃などをする度に焦りを感じる。  娘の通う学校では環境問題を取り上げた授業やプロジェクトが実地されている。 ある日、娘が学校から帰ってくると「今度授業でミツロウラップ作るよ!」とウキウキした様子で教えてくれた。ミツロウラップとは、ミツロウでコーティングされた布のことで、サランラップのような食品用ラップフィルムの代わり

【犬、哲学をひろう】 03 / アートな想像

世界一ちいさな現代美術館。しかも私設。大田和人さんがひとりで運営されている「キャンプ タルガニー アーティスティック ファーム」は、立体作品のコレクションが充実した現代美術館。誰もが無料で訪れることができます。ひとりでゆったり見て回るのはもちろん、作品の解説をうけることもでき、時においしいコーヒーを振る舞ってくださることも。アートを楽しむために必要なのは、想像力。過剰な説明のない大田さんのお話もどこかアート作品のようで、ご一緒するだけでこちらの閃きが豊かなところへ広がっていき

vol.4 境界線は染め替えて

沖縄戦の激戦地として知られる嘉数高台のてっぺんにたどり着いた。目前にある宜野湾の住宅街はある地点から途切れ、その向こう側はアメリカだ。 遠方に広がる普天間基地からこちらを向くオスプレイと対峙する。知る限りの悲しい歴史とやり切れない現状が迫り、息が詰まる。その風景を見て、ある紅型(びんがた)作品を思い出した。 中央で翼を広げるのは「ミサゴ」。英語で「Osprey(オスプレイ)」と呼ばれる鳥だ。ミサゴの下に並ぶキャラクターは、沖縄県民を表わしている。 敗戦後、米軍から配られ