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定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第二十ニ回〉


 ここ最近は晴れていたけど、今日は曇り。
 曇りは良い天気だなと思う。自分の身体が世界にじわっと自然に馴染む天気なので好き。それか大荒れの天気が良い。

 最近は私生活がたいへん。朝に家を出発して、図書館へ。夕方からバイトに行って帰ってくるだけでも力を全部使い果たしてしまう。図書館での作業はそんなに進んでいないので、こんなにも疲れてしまう原因は今の職場がら合っていないからだろう。これについて書き始めると、定本作業に関する事よりも長くなってしまうので書かないように心がけてみる。

 中央図書館には毎日と言ってよいほど通っているのだが、影印版が製本作業に入ってしまった。落丁しはじめているのはわかっていたが、今それを申告すると計測作業が遅れてしまうので黙って借り続けていた。綴じられている箇所が6点くらいあったとしたら、1箇所で繋がっている頁もあった。首の皮一枚だなと一人でけらけら笑っていた。しかし、今まで落丁に気付かずほったらかしにしていた中央図書館サイドにある日突然めざとい職員があらわれ、影印版が製本作業に連れていかれた。笑えないくらい作業が遅れそう。

 こういう事態に備えて、計測結果は一通り終えてメモしていたが作業するときは結局計測対象の本を横に置き、パソコンと本を行き来して作業しなければならない。よって作業は止まってしまっている。できることは色々やってみたが、計測のし忘れもあるし、何より計測結果が信用できないので打つ手なし状態。

 私にとっては、やれば進む作業がすでに明白なのに、ストップしているこの時間がもう最悪。生き地獄をみてるよう。作業していれば直視しなくてよい生活の苦悶がしゅるしゅるっと押し寄せてくるし、進まないという状況ばかりが続いてくのがもう耐え難い。「何も収穫なし」という形で進む方がまだ気の持ちようがある。

 そうは言いつつ明日も中央図書館に行く。多分、カバンを詰め替えため息つきながらゲートを潜っていると思う。というか私ってなんでこんなに憂鬱っぽい文章ばかり書いてるんだ?なんで私ってこんなに偏屈で陰鬱なんだ?いつからこうなったんだ?
 まあ、作業が進まなくても論文も読めばいいし、計測作業のアーカイブ作業もできる、私的な日記でも定本作業日誌でも書けばいい。通い続けて、毎日申請して、製本作業がまだか質問し続けて無言の圧力をかけよう。
明日も中央図書館に行こう。窓もない部屋でじっと作業を続けるより、何の研究をしているのか明らかに80歳超えのお年寄りを横目に、できることをコツコツやるのも馬鹿にできない。馬鹿にすんな。コツコツ舐めんな。分かりました。そうします。黙って動きます。


図書館からの帰り道。秋みたいな冬。


 毎朝、中央図書館の最寄り駅、瑞草駅の改札口にあるパン屋さんが安くておいしそう。韓国の美味しそうで洒落たパン屋が腐るほどある。どれも高そうだが、写真写りの良さにこだわる韓国においては当たり前のように本当に美味しそうな形をして店頭に並ぶ。もちろんそんなパン屋さんに行ってみたい気持ちがないと言えば嘘になる。しかし涎を垂らしながらリュックの奥底にあるスッカラカンの財布を思い浮かべては払い落として改札へまっすぐ向かう往復を繰り返す私には、このパン屋さんほど期待できるパン屋は今この世に存在しない。生活と気持ちが落ち着いて、お金を使う気になったら買ってみたい。


二〇二三年、一二月、七日執筆、更新。

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