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定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第十一回〉

 昨日は10時から15時、17時から22時までのフルタイムでアルバイトをした。
今日は、国民大学성곡(ソンゴク)図書館に行き、朝鮮建築学会編『朝鮮と建築』を見にいくことにした。影印版なのか、原本なのかわからない。(大学図書館でもただ本を見るだけなら大丈夫だ)という噂を小耳に挟んだので、とにかく行ってみることにした。

 もし本当に、大学内で一般人でも閲覧可能だとしたら
《異常ナ可逆反應》、《鳥瞰圖》、《三次角設計圖》、《巻頭言》14ヶ月分、《建築無限六面體》の調査が一気に進むことになる。

 정릉(ジョンルン)駅から徒歩45分。汗だくになりながら北漢山らしき山がみえて少し歩いてきた達成感を覚える。皆、バスか自転車でくるらしいから、今思えば歩いたのは馬鹿だった。

 国民大学の門を過ぎると、別世界のように銀杏の葉が風に吹かれて舞う。黄色一色の景色。
門をすぎ、そのまま少し直進して、左折。しばらく行くと図書館が見える。
汗を乾かそうと、シャツに風を送り込んで図書館の入り口まで向かう。
挨拶。警備員さんに尋ねる。

「저 일반인인데 여기서 책을 읽을 수 있을까요?
(私一般人なんですけど、ここで本を読むことはできますか)」

「못 해요(できません)」

「그냥 열람하고 연구하고 싶은데요
(ただ閲覧して、研究したいだけなんですけど)」

「그러면 지하에 가세요(それなら地下に行ってください)」

 どうしよう。汗だくの45分が無に帰そうとしている。何回か食い下がってみるが結果は変わらない。地下にあるのは本ではなく、たくさんの机と椅子で、ただの自習室だった。念の為、総合案内所でも同じことを尋ねてみるが結果は同じ。皆、(何この人…わざわざここにきたの?なんで…)という不思議なものを見る目でみてくる。45分かけて駅へ戻る。

 気持ちを切り替えて国立中央図書館へ向かうことにする。タルンイを借りて向かうことにしたが計90分の歩行は影響が大きかった。
 国立中央図書館では、『朝鮮と建築』の影印版があることがインターネットで確認できていた。ならば、初めから国立中央図書館に行けばいいという声が聞こえそうだが、そうではない。原本か影印版かよくわからなかったし、実際に行ってみないとわからないから行ってみたのだ。何が悪い。私は学んだぞ。

 国立中央図書館へは、まだ外国人登録証をもらってないので一日券を発行して入る。身分証を出したり書類を書いたり面倒臭い。職員さんに助けてもらいながら『朝鮮と建築』(朝鮮建築学会編、影印版、민족문화、1997年出版)の1931年と1932年分を書庫から取り出してもらう。これから色々とサイズを測るのだ。

 レファレンス担当の方が良い人で、かなり熱心に助けてくださる方だったのでもう少し頼ってみることにした。またしても「原本を確認することはできないでしょうか」と聞いてみた。すると、職員さんは「最近、書籍によっては記帳書庫にあってもみられることもあるんですが、担当者に確認してみます」と電話してくださった。電話の向こうでは「前も来た人でしょう。ダメだよ。みられない。担当者が横にいてもダメ。みられない」と言われたそうだ。レファレンス担当の方は、あからさまに落胆して「어떻게…」と繰り返しているが、私はわかっていたのでその落胆だけで救われるような気持ちだった。レファレンス担当によって微妙に答えは変わるが、やはり私が偉い教授なら答えは変わるかもしれないそうだ。可能性にすぎないが。
 丁重にお礼を伝えて、サイズ計測を始めることにした。本当に良いレファレンス担当の方だった。ありがとう。

 次回は、サイズ計測について書こう。





二〇二三、一一、二執筆。二〇二三、一一、六更新。

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