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定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第五十五回〉

二〇二四年七月一九日

 帰国前に一度先生に会っておいた方がいい。お貸しした本も返ってきていないし、質問したいこともある。そう思ってメールしたところ、先生は16日から21日までスイスのジュネーブにいるらしい。ジュネーブ?ジュネーブ会議か?旅行か?今の時代にスイスへ旅行に行けるなんて、やっぱり大学教員はそこそこお金になるのかしら…と下品なことを考えた。
 出国前に電話が来た。スイスから帰ったらまた電話するとのことだった。多分、もう一度お会いしてくれるだろう。電話の中で「どう?作業は進んでる?」と聞かれたので「いえ、今は毎日遊んでいます」と答えた。すると先生は少し黙ってから、「じゃあまた帰国したら〜」と話を逸らした。先生にとってはあまり良いことではないらしい。そうか、それなら帰国まで精一杯遊んでやろうかなという気持ちになるから、私は本当に筋金入りの聞かん坊であり、天邪鬼である。友達、本当によく付き合ってくれてるよなあ。
 

二〇二四年七月二〇日

映画館でミハエル・カラトーゾフ『怒りのキューバ』を観た。先々週くらいまでの「小森はるか特集」にて体力を使い切っていたので、前日まで観るつもりはなかった。しかし突然、行かねばならないような気がしてお出かけ。『怒りのキューバ』は私のオールタイムベストに堂々食い込んできた。サトウキビ畑のシークエンス、あまりにも美しいショットの連続とそこに映し出される人間の存在感に圧倒されて涙が滲んだ。凄いものをみてしまった。また、また観たい。

二〇二四年七月二一日

 今日と昨日は作業をしっかり進めた。《建築無限六面角体》のテキストデータを作成した。国立中央図書館からダウンロードしたデジタルデータはあまり解像度が高くないので、作成には手間と労力がかかりそうだ。ため息が出そうな作業だが少しずつ頑張っていこう。
 今日も映画を観た。出かけようと思ったけど、なぜ上半身の皮膚が布に触れるだけで痛みを感じるので一日ゴロゴロしながら過ごした。作業ももちろんゴロゴロしながらだった。精度が保てるなら、どういう体勢で作業しても構わない。

二〇二四年七月二六日

 作業は細々と続けている。
クレジットカードをなくした。カードを最後につかったコンビニへ向かう。普通にあった。けれど、その前に警察に届け出て、止めてもらってしまったので生活がかなり不便になった。お金の不安が一気に押し寄せてくる。
相変わらず映画館に通ってはいるものの、あんまり元気ない。そこに輪をかけての不安材料が増えた。はよ帰りたい。
帰る前に、韓国生活を総括した文章を書かねばならんね。心から安心する時間が欲しい。日本が蒸し風呂みたいに暑いと聞いたけど、日本の暑さを忘れてしまっているなあ。


二〇二四年七月二九日更新


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