東洋と西洋が出会うとき。波津彬子の「うるわしの英国シリーズ」
私は、これまで読んだ波津彬子の作品では、「うるわしの英国シリーズ」がいちばん好きだ。物語は、主人公コーネリアス・エヴァディーンの結婚話を中心に進むのだが、このコーネリアスが登場しない話もある。では、その中で何がいいかというと、私は、「夢を見るひと」がお気に入りだ。
「夢を見るひと」は、両親をなくした兄妹が、後見人である伯父の館にやってくる。しかし、仕事で忙しい伯父はそこにはおらず、代わりに大伯母が、小さな兄妹の監督者となった。
大伯母は厳しく、また、家のあちこちには幽霊のようなものが見え、幼い兄妹をおびえさせる。
しかしある日、そんな彼らのもとに、伯父の知り合いだという家庭教師の女性が、紹介状を持ってやってくる。
その家庭教師は不思議な魅力と明るさを持っており、彼女のおかげで、館の中が変化しはじめる。暗かった家の中からじょじょに影が消えていき、どこもかしこも輝きはじめ、そして、いかめしい顔の肖像画が、にっこり笑ったり投げキッスを送るようになってくる。彼女の影響は人間にまで及び、厳しかった伯母も、笑顔を取り戻すのだ。
しかし、あるとき突然、長らく不在だった伯父が帰宅する。
そして、「自分は家庭教師など手配していないし、そんな女性は知らない」と言い放つ。彼は、「その女を追い出してやる」と、いきまくのだが・・・?
この家庭教師が及ぼす周囲への影響、屋敷の中の変化の過程が、読んでいて楽しかった。読みはじめたとき、ヘンリー・ジェイムズの「ねじの回転」みたい、と思ってしまったけれど、その逆を行く、お話でした。
そういえば、「雨柳堂夢噺 其ノ十三」(文庫本)を読んでいたら、あるエピソードでコーネリアスがひょっこり登場してきたので、うれしくなってしまった。
うるわしの英国シリーズには、東洋美術の研究をしているコーネリアスのいとこや、顧客のために日本のキモノやミカドの枕を用意する貿易商アンブローズ・マクラウドなどが登場する。
「雨柳堂夢噺」におけるコーネリアスの登場は、この時代、お互いに憧れの目で見つめあう東洋と西洋の出会いを象徴しているように感じた。
東洋と西洋が憧れの目で見つめあうとき、そこにあるのはきれいなものだけではなく、多少の誤解と、それから偏見も入り混じっている。
それはわかっているのだけど、でもやはり、波津彬子が描く、日本と英国、東洋と西洋が交差するこの一瞬は、とても美しいと思う。
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