見出し画像

シール屋さんごっこ

6歳の息子はポケモンが好きである。
数ヶ月前、楽しく歯磨きをしてもらいたいと「ポケモンはみがき」なるものを買い与えると、その後徐々にポケモンに興味を示すようになり、Huluでポケモンを見始め、本屋ではポケモン図鑑を欲しがり、加速度的にポケモンに傾倒していった。今ではポケモン全種類の名前とタイプを覚えているようだ。

最近は「ポケモンパン」に入っているシールの収集に熱心だ。パン自体はおいしくないようで残しがちなのだが、中に入っているシール欲しさに毎日ポケモンパンを食べたがる。すでに持っているシールが入っていると朝から「またピカチュウか〜」と、がっかりしている。

集めたシールは彼の宝物である。チョコレートが入っていた小さな箱にこれまで集めたシールを大事に保管している。そして時折、机の上でにきれいに並べては「シール屋さんごっこ」を始める。

「いらっしゃいませ!ポケモンのシール屋さんです。買いに来てください。」

これはいつも完全不定期で始まるため、家事の最中だと正直なところ対応するのが面倒くさいなと思うこともあるのだが、できる限りは対応するようにしている。

「じゃあ、ピカチュウとヒバニーとカモネギをください」

私がそう言うと、「3つだけでいいですか?カビゴンもありますよ。」と他のシールもおすすめしてくる。

「では、カビゴンもください」

そう言うと満足そうな顔をして「はい、じゃあ4枚ですね。400円です。1枚100円です。」と手を差し出す。

このやりとりをこれまでにもう何十回もしているのだが、いつの間にか正確に計算ができていることに気づく。ほんの少し前は10枚で75円とか、2枚で1,327円とか適当な値段だったのだが、今は「1枚100円だから、4枚で400円」と計算しているようだ。

ちょっと前までこのシール屋さんごっこは、店主とお客さんのやりとりを楽しむだけのものだったが、いつの間にかそれに加えて「100円のシールを4枚で400円」という掛け算を実践する場となった。彼が意識的にやっているというわけではなく、掛け算が理解できるようになった彼にとって、「シール4枚だったら400円」が当たり前となったのだ。また「10枚で75円」に戻ることはないのだろうなと思う。

こうやって彼は新しい知識をどんどん吸収して内面化していっている。これは素晴らしいことであるとともに、寂しいことのようにも感じる。知識が増えるとともに世界の見え方はどんどん変わっていく。忙しい日々の中ではなかなか難しいことだけれど、なるべくその瞬間瞬間の子供の世界の見え方に寄り添いながら、限られた時間をすごしていきたいなと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?