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新規事業の創出難易度は、業種によって異なる。

巷には多数の新規事業に関する本があふれています。非常に参考になる内容が多いものの具体的にどんな新規事業を立ち上げたのか?についてケーススタディされている本は案外少ないです(もしくは書いてあっても表面的すぎてよく中身が見えない)。

その結果、その本の著者が経験した業界の新規事業の複数例が抽象化され、セオリーとして語られています。

これはある程度仕方が無い部分でもあるのですが、少なくとも新規事業担当者は「業界によって新規事業へのアプローチは異な部分があり、難易度も異なる」という点は頭に入れておいたほうがよいでしょう。

なぜ、頭に入れておいたほうがよいか、というと、意思決定者が時間軸をかなり勘違いするからです。どういうことでしょうか?

例えば、ソフトウェア開発会社の社長が、新規事業として新規性のあるガン検出センサーを商品化したいとします。ソフトウェア開発で、もちろんモノにはよりますが新規事業に該当するソフトウェアのβ版を出すには半年もあれば十分でしょう。

一方で、新規性のある検出センサーとなると話は大きく異なります。既存のセンサーを使うのであればまだしも、既存とは異なる検出メカニズムのセンサーを商品化するには10年以上かかってくるはずです。

それにもかかわらずソフトウェア開発の時間軸で検出センサー商品化を評価した場合、社長には苛立ちしか出てこないのです。「まだ、できないのか?何をやっているんだ?」「スピード感をもってやれ!」となるわけです。

長期事業案件も、短期事業案件も経験していてる人にとっては、両者の違いははっきりと理解できるのですが、経験のない人にとっては言葉では理解しても実感としては腹落ちしない傾向にあります。

長期事業案件を担当している新規事業担当者も研究開発担当者も楽をしているわけではありません。とにかく開発を急いでいます。スピード感を持っていないわけではないのですが、エラー率が圧倒的に高いのです。

つまり100の仕事量を注いだとしても、以下のような結果になるのです。
①ソフトウェア開発 前進した仕事量70 エラーになった仕事量30
②センサー開発   前進した仕事量20 エラーになった仕事量80(ちなみに余談ですが、理学系の新規開発になりますと前進5 エラー95なんていうことはざらです。)

こういう状況を理解したうえで、自分たちの新規事業はどこを狙うのか?も上司と擦り合わせしておくのが良いです。可能な限り過去の協議決定事項は明文化しておき残しておくべきです。

というのも、状況に応じて意思決定者の判断基準がコロコロと変わるので、その都度、過去の経緯を踏まえ、今後の方針を立て直す必要があるからです。(ちなみに明文化の目的を「あなた、以前、こう言いましたよね?」と反論するための武器にしないほうが良いです。自分自身の働く環境を悪化させることにつながります。あくまで、「当初は、このように考えていたけどトライ&エラーを重ね、こういう方向にしたほうが我々の本来の目的に合致していると思う。」という建設的な議論の材料にしましょう。)

新規事業創出の難易度は、本当に業界によって大きく異なりますのでご注意を。家電メーカーで1年で新規事業創出に成功した人が、化学メーカーで同様のことができるかというとかなり難しいでしょう。

もちろん、化学メーカーの既存資産を使いSaaS系ビジネスを立ち上げるという短期間で達成できそうな素晴らしい方法もあるのですが、そのおおもとの既存資産の次の柱になるような新規資産を作り上げるには10年単位でかかってきます。

このような内容を踏まえ、自分たちはどの時間軸の新規事業を開発しようとしているのか、しっかり意識しておくべきです。

ただ私の経験上、(複数の新規事業を立ち上げる場合)、短期間で立ち上がる新規事業を必ず進めておくべきです。「長期視点で革新的な事業」というのは聞こえはよいのですが、人の心は移ろいやすいものです。この本質的人間の特徴を理解しておきたいところです。




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