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新規事業の成功確率を数字で考えてみる。

東証一部上場の名門企業で純粋な成功企業を成功させた人材は非常に稀かと思います。ここでいう「純粋な新規事業」というのは、スタートアップ企業が取り組むような、0→1を起点とした新規事業のこと。つまり、自社の強みが個人(=創業者)のスキルやマインドセット、人脈に依存しており、組織としての資源がほぼない状態で、大きな成長を遂げる事業のことを指します。

実は、大企業での新規事業の定義はあいまいで、「新商品開発」との区別がつかなくなっているケースが多々あります。グロービスの記事によると、アンゾフのマトリクスでいうところの「新製品開発」、「新市場開拓」、「多角化戦略」の3つが新規事業に該当するといえそうです。異論はあるとは思いますが、私の感覚では、この中でも「新市場開拓」と「多角化戦略」が多くの企業がいうところの新規事業の範疇に入るように感じますので、本ブログでも新規事業=「新市場開拓」、「多角化戦略」とさせていただきます

ほかにも新規事業は、既存事業とは異なるビジネスモデル(商品やサービスなどの付加価値の提供と、それによって得られる収益の獲得の仕組み:NRI解説)を有する事業。と記載されており、収益獲得の仕組みが異なれば、それは新規事業だと説明されている例もあります。しかし、例えば「カルビーの社員がフルグラをサブスクで販売します。」といった場合は結構微妙なラインですが、おそらく多くの場合は既存事業の範疇だととらえられると思います。

さて、新規事業の成功確率の話に入ります。前述のスタートアップの例でいうと成功確率はどうでしょうか。スタートアップの成功が上場だと定義すると、5000社に対して50社ぐらいがIPOするようです(根拠動画)。新規上場した企業で、IPO直前の売り上げは46.1億円というデータがありますが(「新規事業の実践論」より)、大手企業が新規事業として取り組むべき規模感と一致しているでしょう。

これを整理すると以下のようになります。
年間5000社のスタートアップ=大企業のテストマーケティング段階
年間約50社のIPO=大手企業が考える新規事業の成功

すなわち新規事業の成功確率=1%

これを聞くとゾッとするでしょう。新規事業は千三つだと言われたりしますが、テストマーケティング(=小規模事業の実際のスタート≒PoC)を経ても成功確率が1%なのです。最近はスタートアップがもてはやされていますが、ビジネス内容を聞くと明らかにスケールしないものや、意味不明なビジネスモデルもあったりします。そこで、さらに厳選されたスタートアップを基準(=1億円程度の資金調達したスタートアップ)で考えると成功率は10%ほどになります根拠動画)。

そうすると大企業が考えるべきことは、テストマーケ以前にいかに、事業成功確率を10%ほどまでに上げていくか、という点になります。

幸い大企業はスタートアップに無い、資源(土地資源や顧客基盤、技術基盤や人的資源)とお金があります。この点も、フル活用すれば、さらに成功率は上がるでしょう(といってもそれほど大きく上がるわけではありませんが)。

新規事業創出で有名なリクルート社においても「1,000件応募があった場合、事業化フェーズに至るのは20件、黒字化まで至るのは3件ということ」と記載されています(根拠記事)。事業化フェーズをどうとらえるかによって異なる部分もありますが、おおざっぱに20件のテストマーティングを行い、その中から生まれた事業で黒字化するのは2件と考えれば、これも成功確率10%程度といえそうです。

ここまで述べてきた中で重要な点は「新規事業は1発1中ではない。」ということです。おそらく一般的企業では「新規事業でテスト販売し始める=後戻りできない。」という状況になってしまうケースも多いかと思います。この点は、経営層にしっかりと確認しておき、「テストマーケティング後でも十分撤退はありうる。他社のケースでも次にうまくいく確率は10%ほどだ。」と説明しておくべきでしょう。

これが認められないのであれば、新規事業はやめておきましょう。ということです。わが社だけが特別で1発1中になることはあり得ませんし(もしあるのなら、根拠を持って説明しましょう。例えば、M&Aで売り上げが数億円程度確保できればOKなのであれば、成功の定義はかなり緩くなります。)、その成功確率が許容できないのであれば、わが社は新規事業を創出するには向いていない企業であり、今は、新規事業開発ごっこをしていることになります。

とはいえ、担当者から「新規事業はやめましょう。」とは言えないでしょう。対策としては、既存事業に貢献する事業案を積極的に出していき、そのまま既存事業に吸収される形で、自分自身も異動するのが1つの方法となります。少々ネガティブな発想になってしまいましたが、数字で考えるといかに自分たちの考えが甘かったかの気づきになります。

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