「ソフトベンダーTAKERU」・早すぎた配信ビジネスに触れた、ユーザーとしての思い出
私は1980年代年代からパソコンゲームに触れてきたユーザーの一人である。その中で、私が体験したことのあるものについて、先日NHKで紹介された。
神田伯山の これがわが社の黒歴史
「ブラザー工業・早すぎた配信ビジネス」
どの会社にも、大きな失敗をした「黒歴史」がある。その失敗が後の成功に繋がるとして、講談師である神田伯山がその歴史を語る番組。
そこで取り上げられたものが、ブラザー工業が発売した「ソフトベンダーTAKERU」。
TAKERUとは、1980年代に登場したパソコンゲームの自動販売機。電話回線を使ってデータ通信で供給するという、当時としては画期的な販売方法を打ち出したもので、ユーザーにとっては品切れがない、パッケージ販売に比べて安いなどを売りにしていた。
私もTAKERUを数回利用したことがある。その時に購入したゲームの一つが、PC-9801版の『ザ・リターン・オブ・イシター』。
1986年にナムコより発売されたアーケードゲームで、パソコン版は1987年から88年にかけて、PC-8801やX68000など当時のパソコンに移植された、その中の一つである。
といっても、別にパッケージソフトが入手難というわけでもなく、一度TAKERUを利用してみたいという興味本位による購入だった。
TAKERUの使用感
ブラザー工業では、その歴史を記録したサイトが設けられている。
そこに掲載されている画像から、私が触れたのは赤いボディの2代目「SV-2100」。
購入方法として、本体中央のタッチパネルからゲームを選んで料金を支払う、機械からフロッピーディスクが出てくるので、取り出してドライブに挿入、書き込んで完了という手順。
その支払い方法は現金で、紙幣は千円札のみ(SV-2100の場合)。そしてフロッピーの書き込みは約10分程度だった記憶。
…つまり、購入のため設置されている店舗でわざわざ千円札に両替してもらい、機械に1枚1枚入れ、更に書き込みに10分ほど待たされる。
しかも購入したソフトは、ラベルに何も書いていない(冒頭の写真は私がテプラでタイトルを書いた)、パッケージはTAKERU専用の箱が付くだけ、マニュアルは後に郵送してもらうことはできるが、購入時はプリンターで印字したものだけ。
あまりに面倒で時間がかかる、それで手にしたものは不正コピーしたようなイメージがある。おかげで、かなり嫌になった思い出が残っている。
また、TAKERUの「パッケージより安い」「ソフトの品切れがない」という売りも、パッケージの価格に比べてせいぜい1割引き程度でしかなく、そもそも当時のパソコンゲームは市場が小さいので品切れを味わったことがないなど、ユーザーとしてのメリットは皆無だった。
ただ、後に高額紙幣の使用や速度を改善した機種が登場したり、TAKERU専売ソフトとして当時人気だったゲーム『ソーサリアン』の追加シナリオなどがあったので数回は使用した。
それらも、使わざるを得ないという感覚が強く、そもそも何で自販機が必要?という疑問すらあった。
あらゆる「そもそも」に対する回答
そんな思い出が残る中で番組を見ると「パッケージがない」「コピーしたディスクは偽物や違法のイメージがある」「そもそもパソコンゲームの市場はファミコンの10分の1」と、私が感じた欠点がそのまま語られていた。
結局、開発側の思惑とユーザーの意識に大きな隔たりがあったこと、それに気づかずに突っ走ってしまったことが問題だったようだ。
ただ番組では、ブラザーはその技術を利用して「通信カラオケ」で成功を収めるなど、その失敗が後の成功に繋がる。そして「自分の考えと世の中の真実とのズレを学ぶ貴重な学び」と語っている。
私にとってのTAKERU
では私にとって、ユーザーとしてのTAKERUは何だったのか?
そもそも使いにくかった、そもそもメリットがなかった、そもそも必要としていなかったなど、いくつもの「そもそも」が思い浮かぶ。
でも、そもそも「画期的なシステム」でなければ、興味を持って触れることはなかったわけで、最初は新しいものに触れるワクワク感があったこと、番組でも「早すぎた配信ビジネス」と書かれているが、その早すぎたもの、まさに当時の最先端にリアルタイムで触れたことは貴重な体験だった。
そして、私にとってもう一つの「そもそも」、そもそも何でパソコンソフトの自販機が登場した?という疑問も、当時のブラザーが新しいビジネスを模索していたからという答えを知ることになる。
そんな、貴重な番組だった。
追記
TAKERUの思い出は、過去にブログで書いたことがありました。今回は、それを元に記事を作成しています。
ソフトベンダーTAKERUとコピー対策の思い出: Blog - 19XX
(2014年8月9日掲載)
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