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『ウルトラマンになった男』子供の頃に見た「ヒーロー」の姿と、大人になって知る「人」の姿

先日読んだ本について。

『ウルトラマンになった男』(古谷 敏著/2009年初版)

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円谷プロが製作した特撮TV番組『ウルトラマン』。50年以上経った今でも新作が製作される、特撮ヒーローとしてあまりに有名な作品だが、1966年に製作された初代『ウルトラマン』で、着ぐるみをまとって怪獣と戦う役を務めた、氏のエピソードを盛り込んだ手記。

私は初代ウルトラマンをTVで見ていた。といっても、初回放送の時はまだ生まれていなかったので再放送。そのため、週1回ではなく毎日1本。それを、学校から帰って見るのが毎日楽しみだったと記憶している。

何もかも初めて、その中で生まれた名作

円谷プロは、ウルトラマンの前に『ウルトラQ』などで怪獣の映像を作っていたが、ウルトラマンというヒーローが登場する物語は初めて。
その主役に古谷氏が選ばれたのは、背が高くて体格が良くてアクションのできる俳優としてだったそうだが、氏は元々ジェームズ・ディーンに憧れて役者を始めたのに、回ってきたのは着ぐるみ。当初はかなり悩んだが、周りの人の後押しもあったおかげで引き受けた。

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ウルトラマンのようなスーツなんて着るのは初めてなので、中に何を着れば動きやすい?下着?素っ裸?水着?など色々試した。
戦う時は、どのような演技をすればいい?と考える中で、ウルトラマンが戦うポーズは、氏の憧れの人をモチーフにした。
何しろ前例がないから見本となるものもない。それは役者だけでなく、制作側の円谷プロにとっても初めてのことで、最初は試行錯誤の連続だった。

そんな、仕事を受けた当初からのエピソードが多く語られている。その中で、一度は本気でやめようと考えたことや、それでも子供達の声を聞いた時に勇気づけられたことなど、どのような気持ちで挑んできたのか、中の人しか分からない「意思」の部分を知ることができる。

名作を作ったのは「人」

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その中で、氏のエピソードと共に多く語られているのが「人」の話

怪獣ヒドラが登場するエピソードで、脚本を書いたのは金城さん。これは怪獣を殺さないストーリーで、スペシウム光線を撃とうとポーズを取るが迷うシーンがある。それを古谷氏は、微妙な指の動きで演じた。
怪獣ジャミラを演じた新垣さんは「ジャミラは元々人間だったが、怪獣になって倒されるという悲劇。人間に戻りたいという思いで演技をした」と語っていた。
怪獣シーボーズの役者は鈴木さん。このエピソードはコミカルにやろう、だからウルトラマンも怪獣も、殺意もいがみ合いもない、お互い傷つけないという演技をやろうとみんなで決めて演じた。

など、エピソードごとに役者や脚本家の名前を挙げ、彼らがどのように作ろうとしていたかを語っている。

私が小学生の時、今挙げた数々のシーンも見ている。しかも、ヒドラの時にウルトラマンは迷いがあったこと、ジャミラは悲しい人間の物語だったこと、シーボーズの時は優しいウルトラマンだったことなど、全てはっきり覚えている
そんな、スタッフの見せようとしたものが、子供の頃の自分にはっきり伝わっていたことと、今も記憶に残っていることが、自分にとって嬉しかった。

私が子供のから、ここでは中に人が入って演技をしていることを分かっていたが、その目は「ウルトラマン」というヒーローの姿を見ていた。そして今になって、子供に夢を与えようという「古谷敏」というヒーローと、それに関わった人達の姿を見る。
そんな、当時と変わらないものを見せてくれる本だった。

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