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外部 IR のすすめ

SWAM 弦の音色を拡張したい方に向けた note です。

物足りなさと難しさ

v2のあらゆるパラメータを弄っても難しい表現のひとつとして、スル・ポンティチェロが挙げられます。Rosin や Int BC などの雑音的表現に関わるパラメータを極端に設定したとしても、耳障りになる倍音は控え目で、か細くも鋭く突き抜けてくるような音色にはなりません

そもそも SWAM の音色モデルは「破綻しにくいように調整されている」ので、全体的に角が取れて音色が丸くなっており、全音域でどんな表現で鳴らしたとしても安定した演奏ができるようになっています。
これが SWAM の良いところであり、物足りないところでもあるのですが…。

どうやら v3ではその「物足りないところにメスが入ったのではないかと思われます。弓位置の幅が0.04~0.16まで拡張され、低圧力での掠れ・上擦りが強調されたことで、物理モデリングとしての完成度が向上したのかもしれません。

しかし、ここで課題があります。「演奏制御する」という点では、現在の MIDI コントローラでは、掠れなどの雑音までを合理的に制御するのは難しくかえって邪魔になってしまう場合があります。

そこで IR を柔らかいものに変更することによって全体の音色調整が施されたのでしょうが、その結果、平均的パラメータの音色表現にも影響を及ぼしたのではないかと思われます。
実際、私は v2では「スルポンティチェロ」でなくても駒寄りで演奏することが多かったのですが、v3では制御設定を変える必要に迫られました。

挙動と IR の変更・倍音補正機能や EQ の実装により、v2よりもできることは増えたけれど、思い通りの音色にするためには設定の手間や精度が求められるようになったと感じます。

v2・v3どちらを選ぶ?

v2を使うのなら、濁った音平均的音色で全体をつくり、気になる部分のみ外部エフェクトで倍音を調整すれば大体の演奏表現には対応できます。ただし、中音域で緊張感のある鋭い音色を出すのはかなり苦労しますし、できないノイズ表現があり、時折大きな壁となって立ちはだかります。

v3では、上擦った音色v2より角が丸くなった平均的音色への対処が必要になるので、v2と同じ制御方法では満足する音色が得られないかもしれません。しかし、表現幅やカスタマイズ性においては間違いなく v3が優れています

v2・v3に共通するのは「弓を押し付けたような濁った音色」の制御はそう難しくないということです。
濁った音を上手く使い、エクスプレッション・ビブラート・ピッチベンドで作り込めば、大抵の表現ができます。
v2の方がシンプルで扱いやすいので、目標とする音色が v2で出せるとはっきりしていて、手間が掛からないのなら、音色面では v3を無理に使うメリットはあまりありません。
スルポンティチェロ的な鋭い表現を取り入れたり、自分なりの演奏制御スタイルを追い求めたり、(後述する)IR の可能性を探るのならば、v3にしない手はありません

音色の改善方法と試行錯誤

響きを改善すべくさまざまなプラグインを試してみて、初めにぶつかるであろう壁が中音域です。(低音域と高音域は、割と簡単にそれなりに満足のいく結果へ到達できます)
中音域は全体を均したような独特の響きで、アルゴリズミックリバーブだけではボヤけてしまうだけだし、一般的なコンボリューションリバーブ(部屋の鳴り)では「独特の響きが部屋で鳴っている」ようにしかなりません。

そこで、倍音のみに EQ を掛け、音色を変化させる手法を取り入れます。外部プラグインでは iZotope Nectar 3 Plus - Follow EQ が有名ですね。
v3では待望の Timbral Correction 機能が搭載されましたが、最大で2つの整数次倍音までしか指定できず、音域により効果が分かりにくい倍音もありますから、吟味する必要があります。

具体的には、基音または二次倍音と三次~五次倍音のなかから一つずつ選択するのがおすすめです。六次倍音はヴィオラやチェロの中音域に艶を付加したり、鋭い極端なノイズ表現などに役立ちますが、優先度は低めです。
弓位置や弦で大きく変化する基音・二次倍音のグラフを演奏表現の強調のために使い、三次~五次倍音で鼻にかかったような成分を調節します。

倍音 EQ のグラフを描けば音色の問題はある程度解決します。
しかし、リアルタイムの演奏制御には向かず、それなりに手間も増えます。そもそも、他のパラメータできちんと演奏表現ができていることが前提の修正作業」ですから、最終手段と言っていいかもしれません。

それに、非整数次倍音に関しては手つかず…一応 SWAM には Bow Noise パラメータが搭載されていますが、ホワイトノイズ的でほぼ均一なので、細かい調整向きではなく、艶っぽくはなりません。

SWAM を拡張するために

ここで検討したのが外部 IR の導入です。コンボリューションリバーブの一種で、「部屋の鳴り」ではなく、「楽器の鳴りを収録したものを使用します。

弦の振動で得られた音に外部 IR を使用すると、さまざまな楽器モデルを再現できるということです。元々はサイレント(エレキ)楽器向けのものですが、「エレクトリック(内部 IR: OFF)」プリセットのあるSWAM にも適します。

使い方は簡単、IR ローダに読み込んで Dry: 0%, Wet: 100% で原音(ノーエフェクト)の音を通すだけ。大きく音色が変わります。

IR の数だけ楽器モデルを増やせるわけですから、SWAM の可能性が一気に広がります。名器ストラディバリウスを模したり、エレキヴァイオリンにチェロの IR を使用し、バリトンヴァイオリン風の音色にすることだってできます。

ただし、ここで注意があります。ほぼすべての IR で加工が必須があるであるということです。特定の周波数で干渉し、鋭く耳障りな音になったり、こもったりします。また、SWAM では弦・指位置によって倍音構成が変わるので、バランスを取るのが中々に大変です。そして…その角を取るにつれSWAM 本来の鳴り方に近づいていくわけです。

v2 に外部 IR を使用すると手っ取り早く音色を変更できますし、扱いやすいですが、音色表現に壁があるのは変わりません。
v3 に外部 IR を使用すると音色が暴れやすくなりますが、理想を追い求められます

私は加工方法には明るくないのですが、最低音から最高音までベタ打ちした MIDI を鳴らし、モニタリングしながら IR ローダ内の EQ で干渉部分を抑え、更にダイナミック EQ、いくつかのエフェクトを掛けて何とか整えています。(もっと良い方法があるかもしれません)

IR の入手方法について

無料・有料で公開されているものを入手するか、自ら本物の楽器の鳴りを録音するかです。まずは、無料で入手できるものをいくつかご紹介します。(録音方法については割愛します)

Angelo Farina's personal Home Page
http://pcfarina.eng.unipr.it/
Public files > Public Directory > IMP-RESP > Violins

サンプルレートが 43956Hz、部屋鳴り感があり、トリミング・ストレッチ・EQ・レート変換などいくらか加工が必要ですが、4種類(CALCANI, KLOTZ,
LANGHOF, VIOLA)もダウンロードできるのは魅力的です。

SWAM Violin Impulse Response
https://youtu.be/twACLYWLD4c

Cmyth さん(@Cmyth_)による SWAM Violin 用にカスタマイズされた IR です。乾いた音色で、IR を通した後の加工もしやすく扱いやすいです。

次に、有料の IR をご紹介します。

(これ以降は有料記事です。特に得られる情報が重要なわけでも多いわけでもありませんが、個人的に愛用している IR(有料)販売サイト2つの紹介と、実践している編集手順について極々簡単にまとめています。)

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