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英語の言葉遊び(13):「スナークを求めて」その四

第三部に「Beamish」という英語辞書に載っていないルイス・キャロルの造語が出てきましたが、The Hunting of the Snarkの前作である「鏡の国のアリス」に挿入された愉快な「ジャバウォック退治の歌 Jabberwocky」はまさに造語だらけ。

次のような言葉です。

  • "Come to my arms, my beamish boy!" 「わしの腕の中においで、まぶしいほどの我が子よ」

  • "And, as in uffish thought he stood,"「そして、快くない想いの中でたたずんでいると」

  • "He went galumphing back."「彼は飛び跳ねるように帰って行った」

「スナーク」の詩のルイス・キャロル語は、前作で登場したものばかりなので、二つの詩は姉妹作。

前作で語られなかった Jabjab Bird や Sandersnatch などが「スナーク」には出てきて、前作を知っているとますます楽しめるわけです。

現代では漫画などには作品の中でしか通用しない言葉が使われることは当たり前のように行われていますが、そういうことは19世紀にはあまりなかったと言えるので、やはりルイス・キャロルはユニークな作家です。

スナークの詩を面白いと思われた方は是非とも、前作「ジャバウォック」も読んで見てください。こちらの投稿で詳細に解説しましたから。

Fit the Fourth:The Hunting
第四部: 狩り(捜索)

The Bellman looked uffish, and wrinkled his brow. 伝令は不機嫌そうに眉を顰めた
"If only you'd spoken before!「もっと前に話してくれさえいれば!
It's excessively awkward to mention it now, 今となってはこういうのは気が引けるが
With the Snark, so to speak, at the door! スナークはつまりすぐそこなのだ」

UffishはGrumpyやill-tempered であること
つまり不機嫌であることと作者はジャバウォック退治の歌に関して説明しています

"We should all of us grieve, as you well may believe,「我々全員遺憾に思うべきだ、君の言葉を信じるなら
If you never were met with again— もう二度と会うことがないならばー
But surely, my man, when the voyage began, だが確かに、航海が始まった時に
You might have suggested it then? いうべきではなかったのかい?

As you well may… はAs well as you may…
詩の文章なので倒置しています

"It's excessively awkward to mention it now—「今となってはこういうのは気が引けるがー
As I think I've already remarked." わたしは既に語っていたと思う」
And the man they called "Hi!" replied, with a sigh, そして皆が気軽に声をかけた男はため息をつきながら(つまりパン焼きのこと)
"I informed you the day we embarked.「僕は出航した日に教えたのに」と答えた

"You may charge me with murder—or want of sense—「君はわたしを殺人罪にかけることだろう、そうでなければ非常識かも
(We are all of us weak at times):(みんな時には弱いものだ)
But the slightest approach to a false pretence だが騙そうとしたことは少しばかりもなかったのだから
Was never among my crimes! 決してわたしの犯罪ではない!

スナークがブージャムだとみんな消滅
だからスナーク探しを指揮している伝令に全ての責任があると言えるでしょう

"I said it in Hebrew—I said it in Dutch—「これをヘブライ語で言ったーオランダ語で言った
I said it in German and Greek: ドイツ語とギリシア語で言った
But I wholly forgot (and it vexes me much) だがわたしは完全に忘れていた(そしてわたしをとてもイライラさせる)
That English is what you speak!" ことは君たちは英語をしゃべるということだ」

英語で説明しなかったのか?

"'Tis a pitiful tale," said the Bellman, whose face「痛々しい話だ」と伝令は言った。
Had grown longer at every word: 彼の顔は一言ごとに悲しみを湛えていった
"But, now that you've stated the whole of your case,「だが、君が全てを語ってくれた今、
More debate would be simply absurd. これ以上の議論は単純に馬鹿げている」

‘TisはIt is
to have a long faceで悲しくなる

"The rest of my speech" (he explained to his men)「わたしの話の残りは(船員たちに説明した)
"You shall hear when I've leisure to speak it.「時間がある時に語ろう
But the Snark is at hand, let me tell you again! だがスナークはすぐそこだ、もう一度言わせてもらおう
'Tis your glorious duty to seek it! スナークを求めることは栄誉ある任務なのだ!」

"To seek it with thimbles, to seek it with care;「指ぬきで探す、注意深く
To pursue it with forks and hope; フォークと希望で追跡して
To threaten its life with a railway-share; 鉄道株で命の危険を感じさせるほどに脅せ
To charm it with smiles and soap! 笑顔と石鹼で惹きつけよ」

第三部でパン焼きのおじさんが語った言葉

"For the Snark's a peculiar creature, that won't「スナークは特異な生き物だ
Be caught in a commonplace way. 普通のやり方では捕まることはないだろう
Do all that you know, and try all that you don't: 君たちが知るあらゆることをやってみてくれ、まだやってみたいことのない全てを試してくれ
Not a chance must be wasted to-day! ただ一度の機会も今日は無駄にはできないのだ

"For England expects—I forbear to proceed:「英国は待ち望んでいるー 慎重に行ってくれ
'Tis a maxim tremendous, but trite: それは大層な言葉だ、だが些細なこと
And you'd best be unpacking the things that you need 必要なものを用意するのがベストだぞ
To rig yourselves out for the fight." 戦いに備えて装備するのだ」

Then the Banker endorsed a blank check (which he crossed), そして銀行家は空の小切手に線を引いて裏書きした
And changed his loose silver for notes. そして小銭の銀貨を紙幣に変えた
The Baker with care combed his whiskers and hair, パン焼きは顎髭と髪の毛を櫛で注意深く整えて
And shook the dust out of his coats. コートの埃を払った

無人島で銀行家のしていることは無意味なような
小切手もまた、21世紀になくなってしまった文化
その昔には小切手が商取引の手段の方法でした
電子化は小切手を不必要にしました
1863年のイギリスの銀行小切手
パウンドのところに金額を書き込んで、真ん中に相手の名前を書く
裏には自分の連絡先などを書くておくことを裏書と言います
20世紀の終わりまでこんな方法でお金をやりとりしていました
もちろん詐欺や不渡もあり、便利だけれども不便な小切手なのでした

The Boots and the Broker were sharpening a spade— 靴磨きと仲買人はシャベルを研いでいた
Each working the grindstone in turn: お互いに研ぎ石を交代で使いながら
But the Beaver went on making lace, and displayed でもビーバーはレース編みをしていて
No interest in the concern: 他の人のしていることに少しの関心も払わないのだった

Though the Barrister tried to appeal to its pride, 法律家は自身の職業に誇り高いことを見せようと
And vainly proceeded to cite 無駄にたくさんの
A number of cases, in which making laces、レース編みは
Had been proved an infringement of right. 権利違反であるという判例を調べようとしたのだった

The maker of Bonnets ferociously planned 縁なし帽子づくりは
A novel arrangement of bows: 新しいリボンの細工を猛烈になって考え出そうとし
While the Billiard-marker with quivering hand 震える手のビリヤード名人は
Was chalking the tip of his nose. キュー先にチョークを付けた

But the Butcher turned nervous, and dressed himself fine, でも肉屋は心配になり、黄色の若い山羊皮の手袋にひだ襟をつけたフォーマルドレスを
With yellow kid gloves and a ruff— 着こんで
Said he felt it exactly like going to dine, 高級レストランで食事に行くようだと彼は思った
Which the Bellman declared was all "stuff."伝令が全ての用意をせよと言ったから

Kid glovesは子供用の手袋ではなく、本革の高級手袋
その昔は若い山羊の皮で作られているのが本式だったとか
17世紀のエリザベス女王も付けていたひだ襟 Ruff
18世紀にこれを付けていると時代遅れも甚だしいと思われるのですが

"Introduce me, now there's a good fellow," he said,「わたしにやり方を教えてくれ、いいやつがいるんだ」彼は言った
"If we happen to meet it together!"「もしみんな一緒で出会うのなら!」
And the Bellman, sagaciously nodding his head, 伝令は賢明そうに首を振り、言った
Said "That must depend on the weather."「それは天気次第だ」

肉屋は何をみつけたのでしょうか?

The Beaver went simply galumphing about, ビーバーは肉屋がこんなにも用心深いことに
At seeing the Butcher so shy: ギャロップするように飛びはねて
And even the Baker, though stupid and stout, そして太ってて馬鹿なパン焼きさえも
Made an effort to wink with one eye. 片目でウィンクしようと頑張った

パン焼きがウィンクするのはきっとビーバーに同調しようとしてのこと
おかしな人たちですが、自閉症っぽい人はこんなことをしたりもします
galumphing するビーバーと、
ビーバーを殺してやるとビーバーを脅していた正装した肉屋
ひだ襟がユーモラス

"Be a man!" said the Bellman in wrath, as he heard「男らしく振舞え!」伝令は怒りを込めて言った、
The Butcher beginning to sob. 肉屋がすすり泣きを始めたからだ
"Should we meet with a Jubjub, that desperate bird,「無鉄砲なジャブジャブ鳥に出会ったなら
We shall need all our strength for the job!" みんなで力を合わせないとだめなのだ!」

ジャブジャブ鳥はルイスキャロルが「ジャバウォック退治の歌」で言及した架空の鳥
”Beware the Jubjub bird”「ジャブジャブ鳥に気を付けよ」と
ジャバウォック退治に出かける若者に警告したほどに危険な鳥?
2010年のティムバートン監督の「不思議の国のアリス」のジャブジャブ鳥

もっと子供向けのコミカルなヴァージョンだとこんな風

Jubjub Bird & Bandersnatch
恐ろしいはずのバンダースナッチも可愛らしい

ジャブジャブ鳥の容姿はどのようなものなのか、わかりかねますが、空を飛ぶダチョウのような怪鳥でしょうか?

いずれにせよ、物語は佳境に入ります。さてジャブジャブ鳥とはいかなるものか?

続く!


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