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どうして英語ってこんなに難しいの?: (14) Qという文字

英語の文字のお話です。

先日、英語のアルファベットの総数は、初めから26文字だったわけではなく、英語独自の北方ヴァイキング原語、Old Norseという言葉のThを表していたthornの文字などが、ある時期から失われてしまった、と書きました。

文字は、大和言葉のワ行の「ゐ」や「ゑ」のように、時代の移り変わりの中で失われてしまったりするのです。

逆に、本来は英語にはなかったのに、付け加えられた言葉もありました。

二つのUが起源であるというあるW(ダブル・ユー)はわかりやすいですが、Qはいかがでしょうか? ローマ帝国のラテン語にWがなかったというのはよく知られていますよね。

現在の英語のアルファベットの第十七字目のQという文字も、少し風変わりなユニークな文字。

それは十一世紀のフランスのノルマンディーに住んでいた、ウィリアム征服王によってもたらされたからです。

英語の中のフランス語

英語の語彙の40%ほどはフランス語起源であると言語学者が唱えるほどに、英語の中にはフランス語の影響が濃厚です。英語の中のラテン系語彙は大抵フランス語経由で導入されたから。

フランス語の語彙はいろいろ英語的に変容して取り入れられていますが、このQという文字も、フランス語的な音を英語に取り入れようとした結果、英語的に変化したという文字。

英語において、Qは普通、日本語のカ行のクkuに近い音を表記する文字ですが、ヘボン式ローマ字ではクはkuであるように、カキクケコ音の表記は、英語では非常にややこしい。

Cも同様にカキクケコ音の表記に使われもするからです。Cucumber やcan, cute, curious, curator, chronicle, candle, フランス語由来のcuisineなど、いくらでもcによるカ行の音を表現する単語が存在します。Cはサ行の音も表したりもします。chandelirとかchになることが多いけれども。chではchurchなど、T音のタ行にも化けてしまいます。

カ行の音はいろんな言葉で表現する必要があるほどに頻繁に我々が発声しやすい音で、微妙な音の変化をさまざまな文字で表記する必要が生じたのでしょうか。

比較的新しい文字のQの使われ方には、英語では、基本的に二つのパターンしかありません。ですので覚えておくと英語理解に便利です。

KWとしてのQ

英語のQの最も普通の使用法は、二つの子音が連結したパターン。カ行の音を表す文字と二重母音のウィーの音のWが引っ付く音を表記するために、このQという文字が必要なのです。無理矢理カタカナ表記するところのクウィーという音を一語で表記したかったために、Qが使われるのです。つまり

Q=KW

ということです。

英語発音において、Q=KのようにWの音を忘れてしまうと、この人の英語は英語らしくないな、と思われてしまいますよ。

カタカナの弊害でしょうか。

例えば、ブリティッシュロックバンドのQueenは、カタカナ表記では、クイーン。

でもこれは英語的には間違いで和製英語発音。クウィーンというふうに発音すべき。もちろん冒頭のクは音の後半に母音を伴わないKの音。kwという子音の連結は日本語には存在しないので難しいかもしれませんが、何度も練習すると必ず発音できます。

一時が万事このようなので、Quickもクイックではなく、クウィック。Quarterもクォーターではなく、クウォーター。

そしてここまで見てきたように、kwとQが発音される場合には、ほとんどの場合、母音のUが伴われて、Quと綴られます。

この特別な音を英語で表記するために、Qは必要なのです。

CやKだけでも事足りるようにも見えますが、英語の特別な発音のために(フランス語由来のkwの音を区別するため)、Qは使用頻度はそれほど高くなくても超重要。Thほどには発音が難しくないのが幸いです。

最近はQは、LGBTQの最後のQとしてよく見かけます。Queer(風変わりな)は、精神的に性別認定できない人のための言葉。欧米では自身の生まれたときに与えられた生まれつきの性に違和感を持つ人の権利を認めることは、人としての基本的人権です。

ですがQというどこか独特な文字によって表現されることはなんだか意味深く感じられます。

語頭に現れるQ

電子版ではない辞書を手に取ってみればすぐに気がつかれますが、Qで始まる単語は極めて少ないのです。Qの部分はページ数が少ないのが一目で分かります。折角ですので調べてみると、たったの八十字なのだそうです。

このサイトに詳細に語られていますが、リストアップされているQで始まる基本英単語をここにコピペしてみます。なかなか楽しいリストです。

quail
quaint
Quaker
qualify
quality
quantity
quarrel
quarry
quart
quartet
quartz
queen
queer
query
quest
question
queue [kju]
quiche [keesh]
quick
quiet
quilt
quintet
quip
quit
quite
quiz
quota
quote
quotient

さて英語話者には基本単語とされるQの言葉。全て理解されるでしょうか?

Brown Quail

リストトップのQuail はウズラのこと。以前、雌だけ四匹ほど数年飼っていたことがあり、毎日小さな卵を産んでくれて有難かったです。ウズラの卵の卵焼きを毎日食べた経験は今から思えば貴重でしたね。

二つ目はQuaint。「風変わりで面白い」という言葉。アンティークな家具を表現するに良い言葉。

Quarryが基本語なのは、昔の人には石切場が身近なものだったからでしょう。A quarry of infomation とは、情報を引き出す(切り出す)宝庫という意味。覚えておくといいですね。QuaはQuality同様に発音はカタカナでクウォリー。クワァリーではありません。曖昧母音にも要注意です。

この中で二つだけ、queueとquicheは、kwと発音しない例外。

Quicheはキッシュで、フランス起源の食べ物。

https://www.thelastfoodblog.com/spinach-quiche/

フランス語そのままですね。わたしもよく作ります。オーブンさえあれば超簡単。

Queueの意味は「列を作る」ですが、キューとカタカナ表記可能。古いフランス語のcoeとかcueがこういう形になって英語化されています。

後に述べますが、Qはその使用頻度の低さから、外国語の借用語や外国的なものを表現するのに大活躍。ですので、このQueueもそうした例なのでしょう。英語話者には綴りを覚えづらい単語。英語圏の小学生は大抵間違えます。

kwと発音しないQで始まる単語にはQuayもありますね。カタカナでキー。波止場や埠頭という意味で、英語圏を旅行すると海辺の街には○○Quayという通りや地名に接することもしばしばです。

わたしが学生時代を過ごしたニュージーランドの首都ウェリントンは、小さな入江から斜面がすぐそばまで迫った山の間に存在する街で、メインストリートはLambton Quay(ラムトンキー)という名前でした。

この長いQuay沿いに国会議事堂から駅や国立博物館まで並んでいるのです。まさに海からの風に支配されている波止場なのです。

Lambton Quayの交差点。左側がQuayの方。

quipは嫌味や皮肉という意味。基本単語なのでしょうか?聞いたことがないですね。ミリアム・ウェブスター英語辞典によると、もはや使われていないそうですが。

語中に現れるQ

以上のようなQで始まる言葉は語源を調べると、ノルマン人侵略後に英語にもたらされた単語が、やはりほとんどだそうです。

ですので、語頭に現れるQよりも、語中に現れるQに注目すると、Qのフランス語っぽさがさらによくわかります。

フランス語起源の英語は、いろいろオリジナルなフランス語と通じ合う名残をとどめたものが数多くあり、フランス語のEを英語のSに置き換えると、なんとなく意味が理解できてしまうこともあります。

フランス語の学校という単語 écoleのアクセントのあるEを、英語のSにすると、Scole≒Schoolになります。Sはエスesで、外国に輸出されると冒頭のエや後半のスの音が欠落したりするという法則があるのです。

この動画が勉強になりました。

さてQですが、equestrian(乗馬術の)や、equal(平等の)などのように、Qはとても頻繁にEをすぐ前に持つことが多い。

ekwという音は、古いフランス語起源なのでしょうね。

eqはSuffix接頭語なのでラテン語とも言えますが、英語のラテン語語彙はほとんどフランス経由です。

eqで始まる言葉には

  • equality, equivalent, equation, equinox, equator, equity, equip, 

などがありますが、eqは等しいという意味なので、そういう言葉が並びますね。赤道は地球を半分に分ける、春分は一年を二つに分けるといった具合。

この言葉はどうでしょう?

  • Squerrl (リス)

は上記の動画から学びましたが、フランス語起源。奇妙なスペルはそのためです。

Eと互換性があるSゆえに、sqで始まる英単語はたくさんあります。

  • Square

  • Squash

  • Squid

  • Squad

  • Squirm

  • Squeeze

他には、

  • Exqusite

もフランス語起源。素晴らしいという意味。素敵な言葉で大好きです。

Etiquetteはフランス語そのまま英語に取り入れられています。

QはAやAcとも結びつきます。Acは元々はAdだったものが変化したものです。

  • Aqua, Aquarium, 

  • Acquire, Acquisition, Acquaintance, Acquit,

  • Adequite

外来語を表記するためのQ

Qの使い方で最も注目すべきは、外来語の表記。

人類のどの民族もカ行の音を多用しますが、言語ごとに微妙に音が違うのは、強拍や子音連結などのために純正な音がなんとなく歪むからでしょうね。

何が純正なカ行なのかは言語学者さんにお任せするとして、わたしには子音連結だらけのアラビア語や東ヨーロッパ語の音が聞き取りづらい。

英語の専門家は外来語を表記するのに、このQをとてもよく援用するわけですが、それはQという言葉が英語圏固有の英単語にはあまり使われることがないからです。

アラビア語からは

  • QatarやIraqという国名

  • 聖典である Quran

などがよく知られています。アラビア語のアルファベット表記にはQが頻発します。中国語の拼音ピンインでは、英語のchiに似た音の表記に使用されます。

でも中東のクエートがKuwaitなのが解せない。Quwaitの方がエキゾチックで引き立つように思えますが。

外来語に使用されるQ。オーストラリアのQANTASがアボリジニ語起源ならば、立派だなとも思いましたが、残念ながら、Queensland and Northen Territory Aerial Services Ltd.という社名の略称でしかありませんでした。

フランス語をはじめとするラテン系の言語では、Qはまた別の使われ方をします。

英語同様にuと引っ付くのが普通なようですが、数字の5はcinqで、このQはkと同じ音。英語的にはSankと同じ音でしょうか。

ドイツ語でもQはUと結びつきますが、Quはドイツ語では、kwのWは濁って英語で言うところのVの音になり、無理矢理カタカナで書くとクヴァという音になります。英語的な音ではQ=KVなのです。

スペイン語ではQは英語話者には、騎士ドン・キホーテ。

ギュスターヴ・ドレによる木版画のドン・キホーテ

この言葉、Quixoteは英語話者には非常に難しい単語で、xが英語には存在しない音だからですが、わたしが聞くと、ほとんどの英語の人の発音は「キヨーテ」に聞こえます。

xは喉の奥から押し出すハ行の音に似た音で、作曲家のバッハ BachのChなどとほぼ同じ音。怪獣で有名なスコットランドのネス湖  Loch Nessのchも同じなので、全ての英語話者が発音できない音ではないのですが、この場合はカタカナ表記がオリジナルなスペイン語に近いようです。

さて、スペイン語の出来ない私が思い浮かべるもう一つのQは、この歌です。

Quでケという音。クウェではないのがスペイン的でしょうか。

Que Sera, Sera

1956年のヒッチコック監督の映画「知り過ぎていた男」の主題歌。

この言葉には、Weblioの解説が腑に落ちたので、そのままコピペします。英語においても、サビの部分に外国語を取り入れる習慣がやはりあるのですね。

Jpopには英語歌詞が日常茶飯事的に導入されますが、日本語だけがそうであるわけではないのです。中国語の歌に日本語の歌詞が取り込まれた場合もあり、以前驚いたものです。

ケセラセラ(西: Que Será, Será)とは、一般に「なるようになる」と和訳される言い回しです。「物事は勝手にうまい具合に進むもの」「だからあれこれと気を揉んでも仕方がない」「成り行きに任せてしまうのがよい」という意味合い・含蓄のある言い回しと解釈されます。

「ケセラセラ」は元々は映画の主題歌のタイトルです。映画と主題歌が世界的に有名になったことで、「ケセラセラ」という言葉も広く知られるようになり、やがて慣用句の一種のように見なされるようになった、という経緯でがあります。

ケセラセラ(Que Será, Será)はスペイン語の語彙を用いて表現されていますが、元々スペイン語圏ではこのような言い回しはなかったようで、「ケセラセラ」は曲のタイトルとして考案された一種の造語的表現と解釈されています。英語に置き換えると「Whatever will be, will be.」となり、すんなり意味が通ります。日本における和製英語のような、いわゆる「なんちゃってスペイン語」であった可能性が非常に高いという次第です。

「ケセラセラ」は映画主題歌として第29回アカデミー賞(歌曲賞)を受賞しています。

「ケセラセラ」の他に、「明日は明日の風が吹く」という言い回しも、「あれこれ気を揉まずに成り行きに任せてしまおう」という意味合いで用いられる表現として、よく知られています。

「明日は明日の風が吹く」は、映画「風と共に去りぬ」に登場する名台詞としてよく知られています。同作品はアメリカ映画であり、原文は「Tomorrow is another day.」であり、文字通りに訳せば「明日は(今日とは)別の日」といったところ。「風が吹く」という要素は意訳と捉えられます。

日本語表現としては、江戸時代に上演された歌舞伎の演目の中に「明日は明日の風が吹けば~」という台詞がある、とされます。映画「風と共に去りぬ」の翻訳者が、この歌舞伎の台詞を念頭においていた、という推察は可能かもしれません。
https://www.weblio.jp/content/%E3%82%B1%E3%82%BB%E3%83%A9%E3%82%BB%E3%83%A9

古い映画の主題歌で、最近までわたしはこの歌を知らなかったのですが、英語圏では、今でもなかなか人気なようです。youtubeにおける再生回数はまさに桁外れ。歌いやすいので、英語の発音練習にもってこいですよ。

Whatever Will Be, Will Be (Que sera, sera)
Song by Doris Day and Frank De Vol

When I was just a little girl
I asked my mother, what will I be
Will I be pretty? Will I be rich?
Here's what she said to me
Qué será, será
Whatever will be, will be
The future's not ours to see
Qué será, será
What will be, will be
When I grew up and fell in love
I asked my sweetheart what lies ahead?
Will we have rainbows day after day?
Here's what my sweetheart said
Qué será, será
Whatever will be, will be
The future's not ours to see
Qué será, será
What will be, will be
Now I have children of my own
They ask their mother, what will I be
Will I be handsome? Will I be rich?
I tell them tenderly
Qué será, será
Whatever will be, will be
The future's not ours to see
Qué será, será
What will be, will be
Qué será, será
https://www.lyricfind.com/

英語以外におけるQについてもっと知見を深めてみたいですが、次に調べるべき文字はXであるべきでしょうね。

Xで始まる英単語はQ以上に少ないながらも、exという接頭辞のために最頻出で、しかも続く母音次第で濁ったりそうでなかったりと発音が難しい。Xもまた、外来語の表記に多用されて発音が非常に難しいのです。

でもそれはまたの機会に。Que Sera, Sera❗️

ほんの小さなサポートでも、とても嬉しいです。わたしにとって遠い異国からの励ましほどに嬉しいものはないのですから。