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ワールドシリーズを見て感じた、与田新政権に期待したい「熱く、賢い」野球

 10月29日、プロ野球とMLBの両方を応援している私にとっては重要なことが2つ起きた。一つは、ボストン・レッドソックスがロサンゼルス・ドジャースを下し、ワールドチャンピオンに輝いたこと。そしてもう一つは、中日ドラゴンズの2019年コーチングスタッフがついに発表されたことだ。MLBの頂上決戦を見て、来季以降の「与田政権」に抱いた期待感について書きたいと思う。

■勝利に向かって「熱く」プレーしたメジャーリーガーたち

 このワールドシリーズの第4戦。0勝2敗の劣勢で本拠地に戻ったドジャースだったが、前日には延長18回にマンシーがサヨナラホームランを叩き込んでワールドシリーズ史上最長の試合を制した。そしてこの日も投手戦が繰り広げられた中、6回の裏にベリンジャーの内野ゴロの間にドジャースが先制。直後のプイグの打席は、私にとって印象深いものだった。ランナー二人を残して打席に立ったプイグは3-1の有利なカウントからロドリゲスの放ったボールを引っ張り、ドジャースファンで埋まったレフトスタンドにアーチを描く。プイグは打った直後にホームランを確信すると、鮮やかな「バットフリップ」の流れで両手を高くつき上げ、走り出す。一方で甘く入ったボールを痛打されてしまったロドリゲスはマウンドにグラブを叩きつけた。プイグがダイヤモンドを一周する間、レッドソックスベンチではセールがチームメートを鼓舞するように大声を張り上げる姿が映し出された。この後結局レッドソックスが4点差をひっくり返しシリーズに王手をかけるわけだが、この一連の場面は、感情にあふれる、「熱い」シーンだった。

 特に中南米の選手(ドミニカ共和国にルーツのあるマチャドやキューバのプイグ)を中心としたメジャーリーガーがいいプレーをすれば喜びの感情を爆発させ、手痛いダメージをチームが受ければ悔しさを全力で表現するシーンが印象に残った。同じようなシーンは、WBCでもよく目にする光景だと思う。そのような姿勢でプレーをする彼らを見て、「気持ちで勝利を掴みにいってるんだな」と強く感じた。プイグなどは典型だが、その他の選手たちも感情を抑えることなく表現していたし、第4戦で好投し、ガッツポーズを見せた前田健太投手も例外ではなかった。

■今のドラゴンズに目を向けると…

 対して、普段私が観ているドラゴンズはどうか。当然、普段のリーグ戦をワールドシリーズと比較するのは無理があるが、「気持ちでプレーしてるな!」と思うことは残念ながら非常に少ない。「気持ち」なんていうと「精神論だ」などと叩かれそうだが、今回のワールドシリーズを観戦して、少し寂しい気持ちになったのも事実だ。例えばチャンスで三振を喫した時にバットを叩きつける。打たれたときにグラブを投げる。日本の野球人は道具を大切にすることを幼いころから教えられてきているし、そもそも日本人は物に当たる姿勢をよしとしない。素晴らしい教育だとは思うが、それが感情を抑えてしまう姿勢に繋がっているのだとすると、少し残念に思う気持ちがあるのも事実だ。

 当たり前だが、「物に当たろうぜ」というわけではない。だが、メジャーリーガーたちを見て、「感情を抑えずに、熱くプレーして欲しい」とは強く感じた。よく日本でピンチをしのいでガッツポーズをするピッチャーに向けて、「そんなこと、メジャーでは報復死球を受けますよ」なんて声が挙がることがある。それは確かにそうかもしれない。しかし、だから喜びの感情を抑えるのか。報復死球を起きたら、それはその時。結果的に乱闘騒ぎになったっていいじゃないか。そんな考え方もあると思う。それだけ、「熱くプレーする」ということは価値のあるものなのではないだろうか。そう感じた。

 今回、与田監督の就任や中村武志コーチが招へいされたことで「星野イズム」というという言葉が聞かれるようになった。星野監督と言えば、まさにこの「熱い」野球のシンボルだった。当然、一部で言われているような暴力などがあったとすればそれは全く別の話ではあるが、星野監督時代の「熱さ」というのはぜひ継承して欲しいと感じる。「精神論」「根性論」などという言葉がネガティブなイメージを持つばかりに、最近のドラゴンズ(正直、日本のプロ野球全般に言える事のように思えるが)はどこか悪い意味で落ち着いてしまっている気がしてならない。当然、選手それぞれに感情表現のスタイルはあると思うが、「気持ちを抑えた野球」をする必要はないと思う。

■「熱い」だけでは…

 一方で、「熱い」だけでは何にもならない。気持ちを爆発させているメジャーリーガーたちだが、このシリーズでも「野球IQ」の高さは継続的に見せていた。よく言われるセイバーメトリクスを中心としたデータ野球は当然だが、それ以上に一つ一つのプレーでベストな選択をしている。1点を取られるにしても、次の1点には繋げさせない守備。内野ゴロでも力を抜かずにファーストベースまで全力疾走し、相手のミスを誘うプレー。当たり前のことを当たり前にこなすことが一番難しいのかもしれないが、レッドソックスとドジャーズの両軍はそれを高いレベルで表現していた。だからこそ強いのだろう。日本人はメジャーリーガーに対して「身体能力が凄い」「パワーがある」というようなイメージを抱きがちだが、そもそも彼らは基本が高いレベルでできている。それに加え、「賢い」野球を実現できている。

 「熱さ」と「賢さ」。正直、どちらも今の竜には足りていないと思う。与田監督にはその両方を持った、魅力があって強いチームをつくっていただきたいと、強く感じた。

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