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ドラゴンズの正捕手はあの「先輩」であってほしい。 諦められない谷繁似の「しびれる配球」。

   配球なんて結果論だ。

   私自身、キャッチャーのリードに文句を言いながらそう感じる。「あの場面でインコースは信じられない!」「何であそこで同じボールを続けたんだ!」私を含め、いつだってファンという生き物は打たれた時の配球に対しては言いたい放題。反対に、ピンチの場面で相手を抑えたバッテリーに対して「いやいや、抑えたけどあのリードはあり得ない!」なんて声はなかなか聞かない。打たれれば間違いで、抑えれば大正解。配球なんてそんなもんだ。

   だからこの場で「いい配球」「悪い配球」について論じるつもりはあまりない。ただ、少し視点を変えて「しびれる配球」というものについて少しだけ取り上げてみたいと思う。このような配球をここ数年のドラゴンズの捕手陣からは見られない気がする。私は今でも中日ドラゴンズでこの「しびれる配球」をかつて見せていた「あの先輩」の正捕手奪取を願っている。

◼︎「谷繁の後継者」に思えた早稲田の三冠王

   私の場合、特定の選手を特別熱心に応援しているわけではない。それでも2015年沖縄春季キャンプで大学生のガキだった私に「神対応」を見せてくれた大島洋平選手と亀澤恭平選手は特別な存在だ。

   同時に、(全く接点はないが)私にとっては大学の先輩にあたる杉山翔大捕手も入団当初から応援させていただいている。早稲田大学野球部でプレーした杉山選手は4年秋にそれまで六大学野球では戦後12人しかいなかった3冠王を獲得。卒業時はキャッチャーではなかったが、「打の選手」としてドラゴンズに入団した。

   その後2シーズンは出番が訪れなかったが、2015年に1軍デビューを果たすと、64試合に出場。当初はとても考えられなかったキャッチャーとして存在感を放ち始め、打撃面で勝負強さも見せながら翌年は104試合に出場し、ついに谷繁元信さんの後継者が誕生したかに思えた。しかし迎えた2017年シーズンは開幕から主に打撃面で苦しむと、結局39試合に姿を現したのみ。今季は一度も出番が訪れていない。

  ◼︎谷繁・細川2大捕手の忘れられないリード

   一旦杉山選手からは話題をそらすとして、「しびれる配球」とは何だろう。これはこれで人によって異なると思うし、思い浮かべるキャッチャーも変わってくると思うが、個人的にすぐにイメージするのは2人の選手。元ドラゴンズの谷繁元信さんと元西武ライオンズ・福岡ソフトバンクホークス・東北楽天ゴールデンイーグルスの細川亨さんだ。

   谷繁さんは言うまでもなく我がドラゴンズの黄金期を支えた名捕手。強肩と勝負強いバッティング、そしてなにより強気のリードで投手陣を引っ張った。谷繁さんのリードは本当に見てて面白かった。変化球を続けたかと思うと、フォーシーム一本で勝負に挑む。1試合トータルで配球を組み立て、相手の心理状態を読みながら戦えるキャッチャーだった。解説者が「相手打線はピッチャーではなく、谷繁捕手と戦っている」と言うのを何回聞いたことか。2011年のクライマックスシリーズから2012年の同シリーズまで60打席連続無安打を記録したが、それでも仕方ないと思えるくらい、相手にとっては嫌なキャッチャーだったと思う。特に大舞台、大事な試合でインコースを要求する姿は「しびれた」。

 細川さんに関して印象に残っているのは2014年の日本シリーズ。個人的には細川さんも谷繁さんに似て、一見偏ったリードをするキャッチャーのように思った。しかしやはり谷繁さん同様、そのすべてに意図が感じられた。この日本シリーズの第5戦は攝津正投手が先発。苦しい場面でカーブを続けて要求するなど、カーブを強気に使いながら攝津を引っ張った。ちなみに、配球とは無関係だが、この試合の最後のプレー、細川選手のファーストへの送球が阪神タイガース西岡剛選手にダイレクトヒット。これが守備妨害となり、ホークスが日本一に輝くプレーとなった。しかしこのシリーズを通じて私の脳裏に焼き付いたのはこの珍プレーではなく、細川さんのしびれるリードだった。

 結局のところ、私にとっての「しびれる配球」とは意図のある「強気さ」「大胆さ」なのだろうと思う。そしてその代表が、谷繁・細川両捕手だった。

■ その血を杉山選手は受け継いでいる

 個人的な意見だが、杉山選手はこの2選手に共通するポテンシャルを持っているのではないかと感じる。特にキャッチャーとして頭角を現した2015~2016年は「こんな配球するのか!」と素直に驚かされたし、正直それ以来ドラゴンズのキャッチャーに対して同じような気持ちを抱いたことはない。

 2016年、JSPORTSに対するインタビュー内で小川将俊バッテリーコーチは杉山選手について『相手打者の読みを外す』キャッチャーであると説明。(対して当時レギュラー争いを繰り広げていた桂依央利選手は『セオリーを重んじる』捕手だと言っている)。同時に、『杉山は打者の読みを外すのは上手いですが、投手と一緒になって酔ってしまう事がある。(JSPORTS同記事より引用)』とコメント。これは杉山選手の配球が偏ってしまう短所を指摘されていると同時に、駆け引きの巧みさに対する誉め言葉とも取れる。

 実際に杉山捕手がマスクを被った2シーズンを見ていた身としても、同じボールを要求し続ける姿勢、ピンチで思い切ってインコースを攻めていくリードに感動を覚えることは少なくなかった。当然、このようなリードはマイナス面も少なくない。インコース攻めはある意味「投手がそこに投げ切る」ことが前提。甘く入れば長打、大量得点にもつながる。同じボールを続ければ、打者が順応する可能性も高い。だからこそ痛打され、「それみろ、何やってるんだ」ともなるが、それこそ結果論。なんといっても杉山選手のリードは見ていて面白かった。

 今季の杉山選手はと言うと、2軍でも背番号と同じ45試合の出場に留まっている。年下の加藤匠馬選手は55試合の出場、更にはかつては1軍で正捕手の座を争った桂選手や社会人上がりの木下拓哉選手も2軍でもがいている。当たり前ではあるが、1軍には松井雅人選手、大野奨太選手、武山真吾選手の経験あるキャッチャーたちがいる。

 数年前には掴んだかのように見えた正捕手のポジション。今はあの時ほど近いものではなくなってしまった。それでもあの時見せた「しびれる配球」を思うと、個人的には谷繁さんの後継者はやはりこの人だと信じたい。そしてその座はまだ空席だ。先輩の来季の巻き返しに期待している。


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